手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「フリーソロ」

「フリーソロ」2018 アメリカ 監督:エリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィジミー・チン 出演:アレックス・オノルド ほか

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MERU/メルー」が面白かったので同じ監督の最新作「フリーソロ」を見てみた。こちらも素晴らしい。ラスト20分の緊張感は凄まじいものがあった。CGでつくられた驚愕の映像体験に慣れてしまったせいか、生身の人間が実際にとてつもないことをやってゐるこれらドキュメンタリー映画の衝撃が増幅されてゐるかもしれない。

MERU/メルー」はヒマラヤ最難関ルートの登頂、「フリーソロ」はエル・キャピタンのフリーソロ(ロープなし)登攀を追ったもの。題材はよく似てをり、挑戦者たちが生死の境に取り憑かれてゐる点も、彼らを追うカメラが逃げ出したくなるような恐怖映像を提供してくれるのも同じである。

しかし映画全体の印象は大きく異なる。簡単にいえば、「MERU/メルー」は陽気であり、「フリーソロ」は陰気である。「フリーソロ」を観ながらぼくはこの対照を非常に興味深く感じた。この差はおそらく、第一に挑戦の質から、第二に挑戦者の個性から、第三に挑戦者と監督/撮影クルーとの距離からくるものである。

MERU/メルー」は誰も成功したことがないヒマラヤ最難関ルートを3人協働で登っていく。ここには誰も見たことがない景色を見たいという素直な欲望があり、チームワークで困難を突破する物語がある。対して「フリーソロ」はロープ付きで何度も練習したうえで、最後にロープを外して挑戦する。だから「MERU/メルー」よりも命を捨てにいってる感じが強い。挑戦の動機も、その行為も、孤独で脅迫的だ。

次に挑戦者の個性だが、「MERU/メルー」の3人はみな陽気でチャーミングであるのに対し、「フリーソロ」のアレックス・オノルドは子供のころから内向的でひとりが好きでひとと話すが苦手という典型的な陰性の人物。両親の人格および彼らとの関係がアレックスの屈折した人格を形成したらしいことが独白から知れる。

第三に挑戦者と監督/撮影クルーとの距離。「MERU/メルー」は挑戦者のジミー・チンが監督を兼ねてゐるから彼の明るい性格と仲間同士の絆、世代交代の物語などが非常に爽快に開放的に描かれてゐた。他方の「フリーソロ」でジミーは撮影に専念してゐて、対象であるアレックスの内面や恋人との関係を掘り下げていく。ラストのアレックスの言葉、そしそれを聞く恋人の表情はなんとも怖ろしかった。酷薄な感じさへした。

MERU/メルー」は今年見たなかでいちばんと言いたいくらい好きだ。年内に見返すことになりそう。