「ANORA アノーラ」2024 アメリカ
監督:ショーン・ベイカー 出演:マイキー・マディソン、ユーリー・ボリソフ ほか
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昨夜見てとてもよかったので簡単に感想を。
①社会の底辺を生きるアノーラがロシアの金持ちボンボンの気まぐれな恋の相手に選ばれ結婚するが、②すぐに世話役と親が出てきて破談となるその顛末記と、③後半、思いがけない相手とのあいだに生まれる親愛のようなものを描く。
まづ主演のマイキー・マディソンの魅力が最高だった。いわゆる個性的な顔立ちの美人だと思う。あと声がいい。阿呆のボンボンが惚れてしまう年上の女性として説得力がある。綺麗なお姉さんに甘えたい願望を金にあかして満たしていく。
女のほうも惚れられて悪い気はしない。底辺から抜け出すきっかけになるかもしれない。ただ本人たちもそれが続くと本気で信じてゐないのは自明で、見てるほうもそれがわかるのだから、日本版予告が誘導するような「幸せの絶頂」という感じはしない。
面白くなるのは破綻までのプロセスで、結婚を無効にするために送り込まれたよくわからん世話役の男たちとアノーラの格闘パートだ。この長い第二幕では何度も声を出して笑った。
世話役の男一味は3人。神父やってるおっさんと、弱っちい髭の男と、用心棒らしいのだがやさしい男。ことごとく役のハマり具合が完璧で、アノーラとともに、奇蹟みたいなアンサンブルを見せていた。全体としていちばんの魅力はここだろう。
このパートが実に愛らしいのは、ロシアの富豪が送り込む男たちなんてすごく怖いイメージがするんだけど、そこを逆手にとって、みんなかわいい感じに演出してること。マフィアとかではぜんぜんない。チンピラでさへない感じ。ちょっとだけ出てくるボンボンのオヤジとオカンも笑った。怖くないなお前らっていう。
基本的にこの映画では女はすごく気が強くて、男はみんな女々しいのね。
さてその女々しい男が、というのは例のいちおう用心棒らしいガタイのいい男なんだけど、こいつはこいつで自分の仕事に疑問を感じてをり、奔放なアノーラにキュンときてしまう。
で、ここは実に短い第三幕、楽しいドタバラから一転して、美しい心の(からだの)交流が描かれる。
アノーラも男も、なんとなく親しみを感じてゐるのに、状況が状況であるだけに、また、おそらくは「自分は愛される資格なんてないのだ」と思ってゐるので、いい感じに関係をつくっていく流れにもっていけない。
アノーラは男のやさしさに対して体で応えようとする、あるいは、それを含むいろいろな感情があふれて、昇華するために、儀式的な性交をしようとする。男はとまどいながらも受け入れるが、求めていたのは射精そのものというより、心のまじわり。
それは接吻を求めるというアクションに象徴されるのだが、女のほうは、そうぢゃないのよ、キスとは違うのよ、となって泣き崩れてしまう。男はまたとまどいながら抱きしめる。いいですね。経験ないけど(笑)わかるわ。
ここの性愛(未遂)がすごくリアルで、ああ美しいなあと思った。結びつくかつかないという緊張感のなかでの、すりあわせと、うまくいかなさと、でも大丈夫だよ、みたいな言葉に尽くせない心の揺れって、古今東西同じだと思うんです。
ふたりはどうなるかわからない。これ切り会わないかもしれない。でも、偶然訪れた「大丈夫だよ」「(受け入れてくれて)ありがとう」の瞬間は尊い。つらい境遇でもこういう瞬間があるから生きていける。
また見る。