手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「ちょっと思い出しただけ」

「ちょっと思い出しただけ」2022 日本 

監督:松居大悟 出演:池松壮亮伊藤沙莉國村隼永瀬正敏尾崎世界観 ほか

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大好きです。すごい傑作だと思いました。

池松壮亮さんてホントにいい男だなあ。可愛らしさと、カッコよさと、セクシーさがみんなあって素敵(くだらないことですが、大竹しのぶさんに似てますよね。本作での、特に泣きが入ったところの発声の仕方などそっくりだった)。伊藤沙莉さんは始めて見たのだけれど、あまりに可愛くて一瞬でファンになってしまった。特にリズム感が見事で、相手が誰であれ掛け合いが無類に楽しかった。

主演の二人のアンサンブルにはミラクルが起ってゐた。いや、この映画を見ると日常のすべてがミラクルで出来上がってゐるんだと感じる。でも多くの場合そのことに気が付かないし、そう感じてもすぐに忘れてしまう。でも、忘れてゐても、ちいさなきっかけで思い出すことがある。素晴らしいタイトルの示すとおり、ちょっと思い出すんですよね。

恋愛に限ったことではない。ひとは現在しか生きられないので、どんなこともすぐに過去になって、あっけなく忘れてしまう。でも、ちょっと思い出す、なんてことがしばしばある、その瞬間に過去が現在によみがえり、現在の意味が変わる。

ひとが生きてゐる時間は複層的なものであり、必ずしも過去から未来へと直線的に進むものではない。ひとは同時に複数の時間を生きてゐるし、過去に向かって進むような時間をも生きてゐる、思い出すことによって。時間が逆に進む映画の構造と、永瀬正敏さんの役がそれを象徴してゐる。

それにしても、ちょっと思い出しただけ、とはなんと見事なタイトルだろう。クリープハイプが歌う主題歌の詞のなかにこの一節があるのだけれど、これだけで自由律俳句みたい(「咳をしても一人」的な)、人生の真理を鮮やかに切り取ってゐて、口にするとなんともジーンとくる。

そうなんですよね、ちょっと思い出しただけなんですよね、すべてが。もうここにはない、だからちょっと思い出すと愛惜の情がわいてくる。だけど、今を生きるしかないので、ちょっと思い出した「だけ」なんだ。ラスト、二人が別の場所でそれぞれちょっと思い出しながら朝陽を見る、そこで主題歌が流れだす、ああ、いい、ホロリでございました。

昨夜は脇屋友詞さんの「しびれる焼きそば」をつくった。これもまた奇蹟のようなおいしさだった。素敵な映画を見て、おいしいご飯を食べて、いい夜になりました。

しびれました😋