手探り、手作り🐘

物には時節、待てば海路の日和あり🚢

「会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカー500年の物語」田中靖浩

会計の世界史」田中靖浩 2018 日本経済新聞社

減価償却

減価償却の登場は会計の歴史において画期的な出来事である。産業革命を経た19世イギリスでは鉄道業が活況を呈した。会社は株主に配当を支払わねばならないが、鉄道は固定資産への初期投資があまりに大きいため、これを家計簿的に処理してしまうと、その年は赤字になってしまい配当が出せない。利益を平準化して安定的に配当できるようにする必要がある。そこで支出を数期に分けて費用計上する会計処理、すなわち減価償却が誕生した。これにより、巨大な設備投資をしても株主に配当できるようになった。

 もともと会計は「お金の計算」からはじまっています。なんだかんだ言っても会計はゼニ勘定が原点なのです。それは「収入ー支出=収支」が儲けの計算の”基本”であるということです。

 その収支計算から離れ、儲けの計算が「収益ー費用=利益」という小難しい体系へ「進化」するキッカケは、鉄道会社による減価償却の採用だったように思います。

 産業革命による固定資産の増加

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 減価償却の登場

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 利益計算の登場

産業革命以降の会計の歴史は、家計簿的な「収入・支出」計算から離れていく歴史といえます。

「収入・支出」から離れ、いかに業績を適切に表現する「収益・費用」の計算を行うかーーこれが企業会計の進化の歴史です。 166-167頁

発生主義

「収入・支出」モデルから「収益・費用」モデルへの移行は、現金主義会計から発生主義会計への移行である。「儲け」は金庫のなかの「金」が増えることではなく、損益計算書という紙の上の「利益」が増えることを意味するようになった。発生主義会計では毎期の利益を計算する損益計算書と、毎期末の財政状態を表すバランスシート(貸借対照表)が必要である。自分(経営者)のための帳簿から、他人(株主)のための決算書へと進化したのだ。

この大転換により会計は複雑化し「粉飾」が可能となった。インチキな決算書をつくる会社も登場する。健全な資本主義社会の発展のためには、投資家による優良企業への投資が必要だ。そこで高度化した決算書を読むことができる会計士が登場し、会社の財務状況を診断する監査という仕事が誕生した。

 つまり500年の歴史の中で、会計は「自分のため」から、株主・投資家といった「他人のため」に行われるように変化したというわけです。

 もちろん会計の基本は「経営活動の記録・計算・説明」であり、その限りにおいて「自分のため」に行っていることは当然です。しかしイギリスからアメリカ、そしてグローバルの歴史を見ると、少しずつ「投資家」への情報提供が重視されていることがわかります。 252頁

管理会計

モノをつくるための工場が大規模化すると、複数の製品を複数の工程を通してつくるようになる。そうすると製造過程がどんどん複雑化してきて、一つの製品をつくるのにどれだけのコストがかかってゐるのかがわからなくなる。つまり「原価計算」がむづかしくなった。これが計算できないと売価を決定できない。したがって粗利も算出できない。これでは経営にならない。

この問題から発達した、経営者が効率よく経営を行うための会計が「管理会計」である。企業会計は外部報告のための財務会計と、内部利用のための管理会計の2本立てとなった。

「守りの会計」が財務会計 です。そこでは株主と債権者に対し、決算書を作成報告することで説明責任が果たされます。

 もうひとつは、原価計算から進化した「攻めの会計」=管理会計です。それは経営問題を解決するために経営者が自由に組み立てる会計です。 326頁

ファイナンス

投資家はリターンを求めて投資をする。投資をするのは「今」である。リターンを得るのは「未来」である。ある会社の価値は、「今」ここにあるものの計算では不十分で、「将来に」その会社のモノや人が生み出す価値をも含む。ある会社を買収するとは、その会社が未来に生み出すキャッシュを買うことである。

工業化社会から情報化社会への産業シフトの転換がすすむにつれ、見えない資産が将来に膨大な利益を生む社会となった。未来予測を含む「将来のキャッシュフロー」をどうやって処理したらよいか。ここにコーポーレート・ファイナンスという会計領域が誕生した。ファイナンスでは、将来のキャッスフローを見積り、それを現在価値に割引計算して、企業価値を決定する。

 ファイナンス理論から飛び出した「企業価値」の概念は、簿記や決算書に対する500年にわたる不満の爆発だったのかもしれません。会計といえばずっと「過去の後追い」であり、そのことに経営者や投資家たちはずっと不満をもっていました。

 そこからまず一歩踏み出して殻を破ったのが管理会計です。「過去」の結果しか表さない財務会計の決算書に対して、管理会計は予算によって「未来」計画への道筋を開きました。さらにファイナンスは「未来」のキャッシュフロー予測の手法によって企業価値の計算を可能にしました。 387-388頁