手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「決算書はここだけ読め!」前川修満

決算書はここだけ読め!」前川修満 講談社現代新書 2010

去年、職業訓練学校に通って簿記2級をとった。いま経理の実務経験を積んでゐる。そういう自分にはちょうどいい復習になる本だった。内容的には簿記3級くらい。そのなかで、まさに「ここだけ読め!」というくらいだから、決算書の大きな枠組みと意味するところを解説してゐる。

かつて「駅前留学」を売りに全国展開してゐたNOVAの決算書を分析したくだりが面白かった。あの事件はよく覚えてゐる。私はそのとき学生で、自分の周りにもNOVA倒産のために多額の損失をこうむったひとがゐた。30万円だったかな、還ってこなくなったと嘆いてゐた。

NOVAは顧客との問題を解決せぬままに店舗数を大幅に拡大した。それが致命的だったと著者はいう。

 先に紹介したウィキペディアの「国民生活センターなどへは大量の苦情が寄せられていたが、改善は行われなかった。」という記述が事実だとするならば、N社は、既存店舗に生じていた重要問題を解決しないままに、新店舗を大々的に開いて新規売上高の獲得に全力投球をしていました。これは、けっして正しい行動ではなく、自殺行為でした。この段階で、N社の倒産は、時間の問題になってしまったと考えられます。

 話がすこし横道にそれるようですが、かつてタイタニック号が氷山にぶつかったときには、船が沈没するまでの間に、三時間程度を要しました。同じように、会社の経営者が現実に会社の命を断ってしまうような経営行動をとってから、じっさいに倒産するまでの間には、何年かのタイムラグがあります。

 このように、N社がじっさいに倒産したのは平成一九年でしたが、一連の決算書を分析する限り、破綻そのものは、実質的には平成一七年に生じてしまっていたと思われます。 166-178頁