手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「日本の税金 第3版」三木義一

日本の税金 第3版」三木義一 岩波新書 2018

なぜ、「減税」が正義の主張なのだろう。おそらく、税を支払ったことによる恩恵を実感できない政治が行われているからであろう。

キャプションに記したあとがきの言葉に尽きる。政治がひどすぎるのだ。過去最高の税収を記録してもわれわれはまったくその恩恵を感じることが出来てゐない。これだけ税金を取られて、なぜ病院の救急車や藝大のピアノや博物館の光熱費やらをクラウドファンディングせねばならない状況になるのか。政治の劣化以外に理由はない。

消費税に関する議論が盛んだ。インボイス制度の開始によって消費税そのものへの関心が高まったこともある。けれど一番は物価高騰による生活苦、30年の経済低迷による貧困層の増大だ。消費税はみんなから徴収するから形式的には公平である。しかし所得が低いほど負担が大きくなるから実質的には不公平である。すなわち逆進性が高い。

著者の三木氏は消費税の逆進性を緩和する最も有力な手段は「給付付き消費税額控除」であると言う。消費税を所得税の税額控除に含めるのだ。

 理論的にもっとも優れていると思われるのが、最低生活水準を維持するのに必要な消費について負担した消費税額分を所得税額から控除する方式である。前述のアメリ財務省の報告書も、逆進性解消策として様々な方法を比較検討した要約として、次のように述べている。

「負担の分配の点で付加価値税をより受け入れやすいものとする案であって、経済効率と歳入の点からも、予算の立場からも魅力的なのは、所得が貧困レベルより上がるにつれて段階撤去される、所得税に対して払い戻し可能な控除を定めることである。適切に立案された控除は、貧困レベルの所得に等しい消費について税負担を除去し、この租税の逆進性を減じる。それは移転支出をスライド制とすることと、いくつかの品目をゼロ税率とすることのいずれよりもはるかに安上がりである。」

 消費税は無差別課税だから、消費した人の負担能力を配慮することはできない。そこで、消費税のこの矛盾を人税である所得税と連携して解消するというのは大事なことかもしれない。その場合は生活保護基準額の八%を所得税額から控除できることとし、所得のない者は還付申告で戻せるようにすることが一番合理的なように思われる。 128頁

なるほどこれにより消費税の逆進性を緩和して累進性を強化することができるわけか。その意味では消費税の減税や廃止よりも優れてゐるように思える。

立憲民主党は今年この「給付付き消費税額控除」の導入を骨子とした「消費税還付法案」を衆院に提出してゐる。法案を読むと、あわせて複数税率の廃止、すなわち消費税率の一律化を盛り込んでゐる。

これはいいのではないだろうか。

れいわ新選組と反緊縮派のひとたちは消費税廃止を訴え、財源として国債を挙げてゐる。よりどころはMMT(現代貨幣理論)である。わたしは二年前にMMTの解説書と反緊縮派の方の本を何冊か読んだ。とても面白かった。

わたしの理解では「現代貨幣理論」の「現代」とは兌換制度が廃止されて中央銀行が通貨発行量をコントロールできるようになった状態という意味である。日銀がお金を刷って国債を買うという連携が確保できてゐれば財政破綻はない。したがって債務の額そのものは問題にならない、インフレにならない限りは。

貨幣論としては正しいと思う。理屈のうえでは、形式的には破綻しない。だから財政健全化は必ずしも必要ない。しかし必ず「インフレにならない限りは」という条件節が付くのである。で、いまインフレが問題になってゐるから分が悪いのではないだろうか。

もう一点、最近ちょっと反緊縮派の議論についていけないと感じるのは、財務省陰謀論に傾きすぎるきらいがあるからだ。財政均衡主義をかかげる財務省が日本を牛耳って緊縮政策をつづけるからこのように貧しくなってしまったというのだが、さすがに単純化しすぎでしょう。

「給付付き消費税額控除」なら税収を確保したうえで逆進性を緩和することができるから、いま消費減税/廃止を支持してゐるひとにも受け入れられるものではないだろうか。

わたしは立憲もれいわも応援してゐる。ネット上ではしばしば双方の支持者たちによる罵倒合戦が見られるが、是非とも舌鋒をおさめていただき、戦略的に妥協して、連立政権をつくろうではありませんか。