手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

ティラミス

賃貸の更新に関する書類が不動産屋から届いた。もう小岩に住んで二年になるのか。ということはチャコと暮して二年になるのか。犬時間に換算すると七を乗じて十四年か。なるほど。でもこの掛け算て意味あるのか。

物価が高騰してゐることだし家賃の交渉が出来るだろうかと考えた。以前住んでゐた賃貸でいちど大家さんに言ってみたことがあるがダメだった。今回はどうだろうか。近所の物件の賃料を調べてみた。うちが異様に安いことを発見した。発見した、というのはウソで、そのことを忘れてゐて、調べて思い出した。

そうだ。ここはすごく安いのだ。特別な欠点があるとも思えない物件だが、かなり安い。だからここに決めたのだった。犬も飼える。こんなに好物件なら、ま、いいか、と思い交渉する気が失せ、不動産屋に電話して更新を希望しますと伝えた。でも、言ってみるくらいしてよかったかも知れない。

不満があるとすればユニットバスで湯舟が小さいことだ。風呂に入る楽しみを味わうことができない。四月も五月も体調が悪かった。ゆっくり風呂に入りたいと思った。銭湯に行くことにした。図書館の近くにあることは知ってゐる。しかし二年近く住んで一度も行ったことがない。

図書館に寄ることにした。手前で近所の奥さんにあった。彼女は犬が大好きである。しかるに夫さんが犬アレルギーだから飼えないらしい。少し話した。息子たちは空手の稽古に行った。その間に図書館にきた。自転車のカゴには借りられるだけ借りたという大量の児童書が入ってゐた。母というのは大変なものだなと思った。

既婚女性と話すときに英語の You に相当する日本語はなんだろうか。現代の感覚として、夫の姓で呼ばれることにアイデンティティの不調和を感じるひとも多いだろう。奥さんとかお母さんとか呼ぶのもなんだか。名で呼ぶことが一般化したらよいが、まづは選択的夫婦別姓を導入すべきであろう。

図書館に入って三島由紀夫の「サド侯爵夫人・わが友ヒットラー」を探した。事前に検索したところ文庫本コーナーにあるはずだった。けれど見つからない。館内のパソコンで再度検索した。やはりある。しかしない。

諦めてカウンターへ行き「ハーメルンの笛吹き男」を返却した。予約の資料が来てゐますと言われた。安部公房の「友達・棒になった男」が届いてゐた。嬉しかった。安部公房の「友達」をずっと読んでみたかった。三島は後回しでいいやと思い、図書館を出た。銭湯へ向かった。

番台にコワモテのおっちゃんがゐた。不用意なことに財布には一万円札と数十円の小銭しかなかった。釣りはあるかと訊いた。ない。銭湯を諦めた。銭湯でリフレッシュするために使うはずだった五百円でなにか買いたい。額は小さくても、享楽的蕩尽的な消費がしたい。そうでないと休日にならない。

ケーキを買うことにした。図書館・銭湯のある道沿いにケーキ屋がある。入った。ティラミスを買った。帰ってパク・チャヌク監督の新作「別れる決心」を観ながら食べた。主演の警官役の俳優がラバーガールの大水にそっくりでワロタ。

ティラミスは美味しかった。ティラミスってどういう意味だろうと思いウィキペディアで調べたら、イタリア語で「私を引っ張りあげて」、また転じて「私を元気づけて」という意味とあった。ふふん。