手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り🌴

「砂漠と異人たち」宇野常寛

砂漠と異人たち宇野常寛 朝日新聞出版 2022

すてきな装丁。写真が下手ですみません🙏

宇野さんの影響を受けて最近「ガンダム」を見てゐる。Amazonプライムに第一シリーズが入ってゐた。これまでテレビシリーズも映画もまったく見たことがなかった。こんなに面白いのかと衝撃を受けてゐる。夕飯時に一話見るのが最近の日課だ。宇野さんに感謝。

「砂漠と異人たち」は閉ぢたネットワークの中の相互評価のゲームから逃れる方法を探求した本。アラビアのロレンスのように外部に砂漠を求めるのでなく、「ここ」に砂漠を発見する力を得るにはどうしたらよいか。村上春樹のように女性の犠牲を前提とした矮小な父性に依らずに自立するにはどうしたらよいか。

特に村上春樹論が刺激的だった。

(・・・)村上春樹の小説に登場する男性主人公たちは、「僕」は、失われた「直子」を求め続けていた。それは、無条件の承認を与えてくれる「母」のような「妻」の所有への欲望だ。しかし、彼が取り戻すべきは「直子」ではなく「鼠」ではなかったのか。「鼠」と、五反田君と、免色を自己の鏡としてではなく、対等な他者として認め、並走したときにこそ、少なくとも彼はこれまでとは異なる方法で、世界に、そして歴史に、あるいは悪に対してコミットメントできるはずなのだ。 246頁

これは唸った。「男の孤独」問題ですね。

ダンス・ダンス・ダンス」の五反田君は「なんでも経費で落ちるんだ」が口癖で、高度資本主義社会の空虚さを教えてくれる(そして空虚さに呑まれて死んでしまう)男。個人的には、村上春樹が創造したキャラクターのなかで最も魅力的な人物だと思ってゐる。

たしかに、「僕」と五反田君が対等な男友達になり、五反田君が死なずにすんだ世界の物語を読んでみたい。今年新作が出るそうだから楽しみだ、どんなかな。

五反田君のことを考える。

(・・・)「五反田君」は注目の若手俳優で表面的にはバブル景気の狂騒を満喫している。しかし彼の内面は、この新しい世界のもたらす虚しさに耐えられなくなっている。彼はその生に意味を見出すことができず、まるでゲームを攻略するようにあらゆる物事を器用にこなしてしまうだけの自分に絶望し、最後は自らその命を絶つ。 203頁 

あるいは三浦瑠麗、ひろゆき、成田悠輔などに感じる殺伐とした感じは五反田君的な虚しさから来るものではあるまいか。「うまいことやる」ことに思考を集中させ、情操が欠如してゐるところは共通してゐる。

三浦瑠麗は夫と共にその経歴と人脈を最大限に利用して最短ルートで支配層に入り込んだ。が、それですることが六本木ヒルズと軽井沢の別荘を行き来して暮らしシャンパンを飲む写真をSNSにあげるみたいなことなわけだ。

ひろゆきは匿名掲示板をつくったIT成金で、現在フランスに住み、リモートで日本のメディアに出ていろいろなひとを論破して人気を博してゐる。彼に正邪善悪という観念はなく、したがって彼の論破藝がよきものを生み出すことはない。誰かが黙らされることによる刹那的な快が売りである。

成田悠輔は現在「高齢者は集団自決したらよい」という提案が世界的な炎上案件となってゐる。日本は超高齢社会で社会保障費が国家財政を圧迫してゐる、これを解決するためには高齢者が集団自決・集団切腹するのがよい、強制的な安楽死も議論になり得るだろうと彼は主張する。

成田のツイッターのプロフィールには「口にしちゃいけないって言われてることは、だいたい正しい」と書いてある。この種のとんがったぶっちゃ風の物言いで人気を博すひとが定期的に出てくる。論語に言う「不遜にして以て勇と為す者」だと思う。勇気ある発言で風穴を開けてるつもりかもしれないが、不遜なだけだ。

三浦もひろゆきも成田もみな頭がよく、辯が立ち、「まるでゲームを攻略するようにあらゆる物事を器用に」こなすが、なんだか虚無的な感じがする。自分たちのようなやり方でチヤホヤされてしまう日本社会のことを「チョロイ」と思ってゐるのではないか。

言うまでもなく、本当の問題は彼らの虚無ではなく、彼らを欲してしまう日本の虚無のほうだ。

 

 

君は、生き延びることが出来るか。