「ティファニーで朝食を」トルーマン・カポーティ 新潮文庫 2008
翻訳は村上春樹。表題作の他に「花盛りの森」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」の三つの短編を収める。
カポーティが好きな友人にすすめられて、学生時代に「夜の樹」という短編集を読んだ。そのときはちっとも理解できなかったのだけれど今回はたいそう感動した。素晴らしいですね。
その友人は小説家を目指してゐて毎年小説賞に応募してゐる。ぼくは彼の作品をいくつか読んだことがあるが、なるほどカポーティの影響を受けてるんだなとようやく理解できた。年齢を重ねるといいことがある。
「ティファニーで朝食を」における辛辣でありながらユーモアに富んだ人物描写は実に痛快だ。以下の箇所など拍手したくなるほど。村上春樹によれば原文の文体がとにかく見事らしい。それを感じられる英語力があったらいいな。楽しいだろうな。
そうこうするうちに一人の人物がいやでも目につくようになってきた。子供がそのまま中年の域に達してしまったみたいな男だ。赤ん坊のぽっちゃりした肉体はまだそもままに残っていたが、そのむっくり膨らんだ、折檻を求めているような臀部は、才能のある仕立屋によっておおむねうまくカモフラージュされていた。どう見ても彼の身体の中に骨らしきものが入っているのとは思えなかった。まったく何もないところに、かわいいミニチュアの目鼻をくっつけたみたいな顔で、まっさらの未使用という趣がそこにはあった。生まれ落ちたかたちのまま、ただ膨張したかのようにも見える。風船みたいにぱんぱんに膨らんで、おかげで皮膚にはしわひとつない。口元は今にも悲鳴をあげてかんしゃくを起こしそうだったが、それでも甘やかされた駄々っ子のような、あどけないおちょぼ口を作っていた。 58頁