手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界」小野昌弘

免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界

小野昌弘 筑摩書房 2022

コロナパンデミックがはじまって3年が経過した。みんないろいろ我慢したり、自分の考えと違ったことを要請されたりして、鬱憤がたまってゐる。

鬱憤がたまると、コロナなどウソなのだという騒動系の議論や、ワクチンは人口削減計画の一環なのだという陰謀系の議論に惹かれてしまう。その種の考えに深入りするとなかなか出てこられなくなるのでやっかいだ。

また、この鬱憤が高齢者は社会のお荷物だみたいな議論に向かってしまうのもよろしくない。コロナで危険なのは高齢者だ、なぜ逃げ切り世代の老人たちのためにこんなに我慢して、これほど税金が投入されるのか、けしからん。というような。

とにかく社会に鬱憤がたまらないようにしないといけない。そのために政治はもっと「説明」をしてほしい。いまどういう状況で、これからどういう状況にもっていきたくて、そのためになにをするのか。そういうおおきな状況認識と方向性について、定期的に国民のまえに開陳してもらいたい。

必ずすべきことと、できるならやったほうがいいことと、無理してしなくてもいいこととを分けて、しなくてもいいことについては「そこはもういい」としっかりアナウンスしてほしい。

鬱憤が蓄積されてワクチンそのものに忌避感をいだくひとが増えてしまうと、次のパンデミックのときに大変でしょう。また「姥捨て山」式の議論がひろがると社会があんまり殺伐としてつらいです。

小野昌弘さんの「免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界」を読んで思ったのは、科学への信頼を社会がしっかりもってゐないと、パンデミックを終わらせることはできないんだということ。

ウイルスについてはわからないことが多いし、PCR検査は完全ではないし、ワクチンには副反応があるけれども、総体として科学を信頼して、技術を利用してやっていくほかない。だからワクチン研究とか基礎医学とかデータ集める機関とか、そういうところにしっかり税金を投入するべきなんだなと、すごくフツーの感想をもった。

以下ノートをば。

ワクチンへの不安というのは☟のようなことがわかってゐないところから来るのかな。

 ワクチン接種を一回受けると、スパイクタンパクに特異的なT細胞とB細胞の数は増えていきますが、ウイルスを駆逐するのに十分な量には届きません。しかし、2回目の接種をすると、これらの細胞はさらに増えていき、ウイルスが侵入してきたときに迅速で強力な免疫反応を起こせるようになります。

 このようにワクチンを接種することで、新型コロナウイルスを迎え撃つ準備が整うのです。

 ワクチン接種を受けたあと、時間がたつにつれて免疫のはたらきが減弱していく理由は、ワクチンによってつくられた中和抗体と記憶T細胞が徐々に減っていくことにあります。しかし、時間がたつにつれて、これらの細胞がどうして減っていくのか、その理由はまだ解明されていません。 146頁

☟の箇所なるほど。ウイルスの性質が変化すると対策の仕方も変えねばらならない。当たり前といえば当たり前だけれど、こうしてきれいに説明してもらえると納得だなあ。

 他の東アジア諸国では、PCR検査と隔離にもとづく徹底した感染封じ込めを、政府の主導で行ったわけですが、それに対して日本は、住民ならびに飲食業の自粛に任せてきました。しかし、早期の感染封じ込めを目指して、多くの国民が協力的に振る舞ったという点では共通していました。

 第1波では、欧米を中心に多くの国で最大級の死者が出た一方で、日本をふくむ東アジア諸国は感染を封じ込めることに一定の程度は成功し、死者数を抑えることができました。ですから、このような東アジア型の対策が有効であったことは明らかです。この方法は従来株までは有効であったものの、感染性が大幅に増加したデルタやオミクロンに対しては効果が減じ、特にオミクロンが大流行した際には感染封じ込めがうまくいかず、多数の死者を出すことになってしまいます。オミクロンが流行した際に、重傷患者・死者をあまり出さずに済んだ欧米諸国とは対照的な結果です。

 つまり、パンデミック初期においては、日本を含む東アジア型の方法が効果を上げたものの、感染性を増した変異株が登場して以降は、ワクチン接種を主軸とする英米の戦略的な対応が効果を上げているといえるのです。 223-224頁

パンデミックからエンデミックへの移行について。どうなりますかね。

 そして、エンデミックに移行するということは、新型コロナウイルスが消えてなくなるのではなく、インフルエンザよりもたちの悪い呼吸器感染症として、とくに冬場には、基礎疾患のある人や高齢者が重症化するリスクにさらされる状態が続くということです。

 新型コロナウイルスは、エンデミックに移行しても変異を蓄積し、ときおり「懸念される変異株」が出現し、それが大流行することもあるでしょう。こうした場合、この変異株の大流行が複数の国で起こる可能性があります。 247-248頁

 パンデミックが終息しても、新型コロナウイルスはそのまま人間社会に残り続けます。地球上のどこかで感染が起こり、時には、新たな変異株の出現をきっかけに感染者が急増するということが繰り返されるのです。新型コロナウイルス感染症は「風土病」の一つとして各地に根づいていき、それぞれの地域で感染が広がったり収束したりといったことが、当面のあいだ続くはずです。

 このような状態を、先ほども述べたようにエンデミックといいます。 250頁