手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

カタック基礎 ティーンタール、ラヤ、タタカール

前置き

これはわたしのワークショップで参加者の方にお配りしてゐるプリントの一部を切り取ったものです。カタックの学習において、ここに書いてある概念を理解することが最初のステップとなります。

ティーンタール

②ラヤ

③タタカール

この三つを正確に理解し、朗誦し、実践できるようにする。あとのすべての技術と演目はすべてこの上に積み重なっていきます。はじめに土台を頑丈にしておきましょう。

言葉の響きがインドのものだからギョっとしてしまうだけで、決してむづかしいものではありません。概念の内容そのものは単純です。

以下、順番に説明していきますので、予習・復習用にお使いください。

なお、ここに書くものは門外不出とか一子相伝とかではまったくなく、もはや一般知となってゐるもので、検索すればいくらでも出てきます。出し惜しみするようなものではありません。

なお、一般知の常として、言い方とか遣り方には流派によってまた指導者によって多少の差があります。そこは気にしないでください。

わたしはわたしの先生から教わったことと、自分で本を読みネットを渉猟して調べたことを整序して、みなさんにお伝えします。

では、はじめましょう。

ティーンタール(TeenTaal / तीन ताल)

時間が流れてゐる。

ただ静かに流れてゐるだけだと我々はリズムを感じません。そこで一度パンと手を叩いてみましょう。直線に点が打たれました。ここで時間が分割されます。その瞬間に時間はただの直線ではないものに変質したことが分かります。リズムの萌芽です。

もう一度手を叩いて見ましょう。点が二つ生まれました。ここにおいて変化は決定的なものになります。点が二つになると安定する。なぜ安定するかというと、そこにパタンとテンポが生まれるからです。これがリズムです。点は拍(ビート)となります。

北インド音楽の言葉で、複数の拍から成るパタンがぐるぐる廻っていくこと、リズム周期を「タール」といい、テンポのことを「ラヤ」という。

最もよく使われるのが16拍からなるリズム周期です。16拍がぐるぐる廻る、循環する。これを「ティーンタール」といいます。

この16拍はそれぞれ4拍から成る4つのブロックに分かれてゐる。すなわち4拍×4拍=16拍という構造を持ちます。これを英語文字、インド文字、カナ文字でそれぞれ示しましょう。

Dha    Dhin    Dhin    Dha 

Dha    Dhin    Dhin    Dha

Dha    Tin       Tin      Ta

Ta       Dhin       Dhin    Dha

धा         धिन               धिन              धा
धा         धिन               धिन              धा
धा              तिन               तिन              ता
ता         धिन               धिन              धा

ダー    ディン      ディン       ダー

ダー    ディン      ディン       ダー

ダー    ティン      ティン       ター

ター    ディン      ディン       ダー

4拍×4拍になってゐますね。

では、ここでわたしの朗誦を聴いて(見て)いただきます。

「ダー、ディン、ディン、ダー」と言いながら手と指で16拍を数えてゐます。その数え方の変化によって4拍×4拍のブロックが示されてゐるのが分かりますね。

そして上の表における青文字の部分で、パンと手を叩いてゐます。3度手を叩く。「ティーン」は数字の3を意味します。「タール」は先にリズム周期であると述べましたが、原義では手を叩くという意味でした。

だから3度(ティーン)手を叩く(タール)16拍のリズム周期のことを「ティーンタール」と呼ぶのです。英語の Three をもってきてスリータールと言うこともあります。

叩いてゐる1拍目、5拍目、13拍目のことをタリ(Tali)、叩いてゐない9拍目のことをカリ(Kali)といいます。カリとは「からっぽ、空白」という意味です。

繰り返される周期の一周分のことをアヴァルタン(Avartan)といいます。わたしの先生の主催する学校は Avartan School Of Kathak というのですが、ここから取ってゐます。

拍のことをマトラ(Matra)、周期の第1マトラをサム(Sum)、そして上の動画でわたしがやってゐるように、何かを朗誦することをパダント(Padhant)といいます。

もちろん、このへんのことは教室内で何度も説明し練習し、やってゐるうちに覚えるものですので、見知らぬ言葉の羅列に怖気づく必要はまったくありません。

ラヤ(Laya / लय)

次にテンポです。テンポのことをラヤといいます。ラヤは3種類。

  • ヴィラムビット(Vilambit)=ゆっくり
  • マディヤ (Madhya) =中くらい
  • ドゥルッタ(Drut)=速い

「ゆっくり」とか「中くらい」とかぼんやりした書き方をしてゐます。それは「♩=○○」みたいに数値で決まってゐないからです。およそ「♩=60」「♩=120」「♩=240」くらいになるかと思いますが、幅がある。

料理の「塩ひとつまみ」みたいなもので、状況に応じて変わります。しかし多少変わってもやっぱり「塩ひとつまみ」は「塩ひとつまみ」ですよね。

それと同じで、幅があるなかで「ヴィラムビット」は「ヴィラムビット」、「マディヤ」は「マディヤ」なのです。

それぞれの関係性は2倍→2倍→で速くなります。「ヴィラムビット」の2倍が「マディヤ」、「マディヤ」の2倍が「ドゥルッタ」です。

上掲の動画、手で16拍を刻みながら、次の周期に入ると「ダー、ディン、ディン、ダー」の速度を2倍にしてゐますね。また次の周期に入るとさらに2倍になってゐます。

つまりこれは、

①4×4=16拍から成るティーンタールの循環構造

②3種のラヤのおよそのテンポ感とその関係性

を理解し、からだに叩き込むための練習ということになります。

これ自体はダンスではありません。しかしタールはカタックのキャンバスと言われます。あらゆる演目がこのリズム周期のうえに描かれていきますので、はじめにきちんと習得しておく必要があります。

がんばりましょう!

タタカール(Tatkar / तत्कार)

次にタタカールです。タタカールとは足踏みです。↓こういうものです。

同じ場所で「右、左、右、左踵、左、右、左、右踵」を繰り返します。これが基本の足の使い方です。カタックではティーンタールの循環に合わせてほとんどずっとこの足踏みを続けます。

ポイントとしては、運動会の入場とか軍事パレードの行進のように膝を上げたり足を前に出したりしないこと。むしろイメージとしてはサッカーボールを蹴るように膝下を背面の方に引く感じです。そして足の裏全体で地面を叩く。

これをやると下半身の血行が促進され、腹筋と背面全体(ふくらはぎ、ハムストリングス、臀筋、背筋)が鍛えられますので、健康法として素晴らしい効果があります。

なので基礎練習としてのタタカールは体力づくりという意味がおおきい。全身の筋肉を鍛え、体幹を整え、それを一定のリズムで同じモーションで動けるようにし、且つスタミナを養います。

(リズムを複雑化させるとそれ自体がひとつの演目となりますが、それはまたいづれ

さて、動画の中でわたしは1アバルタン(周)ごとに「エグン」「ドゥグン」「チョウグン」と言って足踏みの速さを倍にしてゐます。これは主にタタカールの中で使われる概念で、「グン」というのは「倍」という意味です。

  • エグン(Ekgun)=1倍
  • ドゥグン(Dugun)=2倍
  • チョウグン(Chaugun)=4倍

では何を倍にしてゐるのでしょう。「拍を分割する数」を倍にしてゐるのです。

エグンのときには1拍に1度足を踏んでゐます。ドゥグンでは1拍に2度、チョウグンでは1拍に4度足を踏んでゐます。ラヤは変わらず、その固定されたラヤにおける1拍を分割していく。

(要するに4分音符、8分音符、16分音符ということなのですが、そんなふうに西洋音楽の楽典概念で理解すると、途端につまらなくなります)

あれ、となるとラヤと同様に、2倍→2倍→で速くなってゐることになりませんか。

その通りです。「速くなり方」が同じなのです。するとどういうことが起こるか。

  1. ラヤは「拍と拍の間隔」に基づく速度の概念である。
  2. グンは「拍と拍の間隔を分割する回数」に基づく概念である。
  3. 基準が違うが「速くなり方」は同じである。
  4. そのため連続して移行させると同じに見える。

というのは、ティーンタールの朗誦で「ヴィラムビット」「マディヤ」「ドゥルッタ」と順に速度を上げてゐますが、これはタタカールにおける「エグン」「ドゥグン」「チョウグン」と、速さの変化としては同じですね。

というわけで、他の教室でどうなのか知りませんが、わたしのグル(師)、ヌータン先生の教室では入門者に「ヴィラムビットラヤ、マディヤラヤ、ドゥルッタラヤはエグン、ドゥグン、チョウグンに相当する」と教えてゐます。

なぜこんな混同しやすい言葉使いをするのでしょうか。これは半ば冗談ですが、やっぱりインド人はこういう頭がふわふわするような感覚が好きなんぢゃないでしょうか。知りませんけどね。

実際、タタカールを長時間やってゐると、瞑想状態に入ってすごく気持ちがいいです。

わたしは昨年4月のインド滞在中、毎朝タタカールを30分から40分やりました。それも「チョウグン=4倍」のさらに倍「アートグン=8倍」の速度でやるんです。これがヌータン先生のルーティンです。

江戸川カタック社でもそういうのをやってみたいですね。

というわけで、みなさん一緒にトリップ出来るように(?)、がんばりましょう!