手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「現代思想2022年12月号 特集=就職氷河期世代/ロスジェネの現在」

現代思想2022年12月号 特集=就職氷河期世代/ロスジェネの現在青土社

雨宮処凛生田武志杉田俊介の三氏による巻頭鼎談「この荒野のような世界で」が面白い。生田武志さんの次の発言に同意。

生田(・・・)非正規雇用の問題というと派遣の問題が言われがちですが、実は派遣はこの二〇年間、微増しかしていなくて、先ほど杉田さんも言われたように、昔から多いのも増えているのもパート労働者です。パート労働者は主婦が中心で、しかも正規労働者との賃金差が世界的に見てもきわめて大きい。

 日本は一貫して「夫が正社員、妻がパート労働と家事」という性別役割分業を続けている。これが続く限り、男性は長時間労働、女性は低賃金で不安定雇用というパターンは変わりません。僕はこれが日本の労働問題の最大のポイントだと思っています。個人的にはオランダモデルワークシェアリングのように、男性も女性も短時間の正社員で家事や育児を分担する枠組みを保障するのが最適解じゃないかと思います。

 そして、いまのように労働者への教育投資をやめて、生産性の低い従来型の製造業に低賃金の非正規労働者を大量投入するというやりかたは、資本主義的にも間違っているとしか思えない。「世界一の少子化」もそのひとつの帰結でしょうが、自分で自分の首を絞めているとしか思えないんです。今とはちがう社会の展望を政治かや労働運動が示していかないとダメだろうと思います。 17頁 改行を追加した

オランダモデルというのをはじめて聞いた。これがいい。「男性も女性も短時間の正社員で家事や育児を分担する枠組みを保障する」のが理想と思う。

ぼくたちの意識も現実も「夫が正社員、妻がパート労働と家事」からはだいぶ離れ、多様化してゐるのに、システムのほうはそのままだ。

正規/非正規という分断が本質を見えずらくしてゐる。あるいはぼくたちが真の問題に向き合うことを困難にしてゐる。なんだか分断統治みたいだ。

企業は人件費を削減するために非正規を増やす。すると正社員は過重労働になる。少ない正社員に責任ある仕事が集中し、残業も増える。比較的マニュアル化可能な仕事が非正規にまかされる。

非正規は労働時間が短い場合が多く、残業も少ない。そのかわり業績が苦しくなると解雇される。正社員がひとりだけ猛烈に働いてその下に非正規が何人かゐるという職場/部署がたくさんある。疲れ切った正社員とキャリア形成できない非正規が量産される。

正規は過重労働で苦しい、非正規は不安定で苦しい。どちらも苦しいわけだ。

問題はこの構造そのものにあるはずだが、正規は「自分は給料もいいし安定してゐるから労働環境が悪くても仕方ない」と思ってをり、非正規は「自分は簡単な仕事だし定時で帰れるから不安定でも仕方ない」と思ってゐる。

正規/非正規という分断が「しがみつかなきゃ」マインドを強化し、労働環境の改善、賃上げ、および健全な人材の流動化を阻害してゐる。

重要なのは、そのような二項対立から脱し「男性も女性も短時間の正社員で家事や育児を分担する枠組みを保障する」ような制度をつくることだろう。

現在の正社員の「8時間+残業+通勤」という拘束時間はあきらかに「家のことを自分以外の誰かが全部やってくれる」ことを前提とした設計だ。共働きの夫婦にとっても、仕事以外の時間を大事にしたいひとにとっても適切ではない。

日本の男性はあいかわらず家事・育児を忌避する傾向が強いためそちらは女性が多くを担うことになる。だから夫婦では男性正規・女性非正規の組み合せが多くなる。ずっと非正規で女性のキャリア形成の道が乏しいとなると、結婚相手に経済力を求めるのは当然だ。

すると金がないので結婚できない非モテ・弱者男性が登場し、悪い場合には女性嫌悪の言説をまき散らすことになる。悲しいことだ。

正規/非正規の対立構造を内面化しすぎたことによる「しがみつかなきゃ」マインドをなんとかしないといけないと思う。「非正規のままだとこ~んなにヒドイことになるぞ」式の経済記事が多すぎる。ちがうでしょ。

失敗しても大丈夫だ、非正規でも大丈夫だ、辛い環境にしがみついてゐる必要はないのだ、辞めてもいいのだ、そう思えるような社会保障制度をつくるべきだ。

それはそんなにむづかしいことなのか? 五輪にいくらかけたのか。防衛費にいくらかけるつもりか。それは社会保障より大切なことなのか? なぜ貧しいひとたちからこんなにたくさんの税金をとるのか。