手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

膿の親

昨日、安倍晋三首相が辞意を表明した。

病気と治療を抱え、体力が万全でないという苦痛の中、大切な政治判断を誤ること、結果を出せないことがあってはなりません。国民の皆様の負託に自信を持って応えられる状態でなくなった以上、総理大臣の地位にあり続けるべきではないと判断いたしました。総理大臣の職を辞することといたします。

とのことだ。

7年8カ月のあいだに辞職に追い込む機会は何度もあった。腐敗、不正、汚職、国会軽視、法治の破壊、国民愚弄、歴史修正主義とアジア蔑視の蔓延。何度も辞職に追い込む機会はあり、国民の怒りが盛り上がりを見せた場面もあった。しかし、その怒りが政治勢力に結集することはなく、国政選挙では与党の圧勝が続き、世論調査で支持率30%を切ることはなかった。

結果として「病状の悪化による辞任(がんばったんだ、かわいそうでしょ、責めないでね)」という「花道」を残してしまった。なんの責任にもとらず「志半ばで断腸の思い」で辞めるわけだ。五輪の中止くらい決断してから辞めたらどうかと思うけれど、もろもろ次の首相に押し付けだ。

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2020.8.28 20:55

病気は気の毒なことだ。そんなことは言わずもがなだ。治療が良好に進めばよいと思う。しかし、抜群に卑小で厚顔で愚鈍な人間が長期にわたって圧倒的な権力を握ったことで生み出された荒廃の責任は、病気によっては免責されないはずだゾ。

でも、免責されるかもしれない。みんな忘れてしまうかもしれない。これから政情が流動化すれば、「安定してゐてよかった」と言われるかもしれない。

情けないことだ。選挙で大敗させて政権交代をおこすべきだった。それがどうしても必要だったと思う。ぼくは何もできなかった。無念だ。

第二次安倍政権下で撒き散らされた「膿」の親はもちろん安倍首相だ。しかし彼が諸悪の根源なのではない。膿の親にはまた親がゐる。

それが「戦後レジーム」というものだ。白井聡氏の言葉でいえば「戦後の国体」ということになる。

1945年の敗戦と連合国による占領、1950~53年の朝鮮戦争と逆コース、1951年のサンフランシスコ講和条約日米安保と沖縄の犠牲。

この時期に形成された構造がいまだに日本人の国際感覚と世界認識を根底から規定してゐる。

世界は東西の陣営に分かれてをり、東は共産主義で左翼で革命でヤバイ感じであり、西は自由で人権尊重でアメリカが最強で日本はその一番の子分でアメリカに抱き着いてゐれば大丈夫、というものだ。

この体制は冷戦構造下におけるアメリカの世界戦略に適合するかたちでつくられた。サンフランシスコ講和条約は「半面講和」であり、中国も韓国も北朝鮮もロシア(ソ連)もこの条約に参加せず、後から平和条約を結ぶ必要が生じた。北朝鮮とロシアとはいまだそれもかなわずであり、中国・韓国・ロシアとは領土係争を抱えてゐる。また沖縄には在日米軍の70%が集中してゐる。

またこの体制は、戦争責任を曖昧化することで成立したために、大日本帝国的なるものが温存された。冷戦が終わり「戦後の国体」が機能不全をおこし、大日本帝国の残滓を地下に押し込めておくことができなくなった。それが噴出し始めたのが90年代であり、それが明確に権力構造をつくったのが安倍政権だった。

天皇を利用した国粋主義、アジア蔑視、無責任体制、現実の否認と妄想的世界認識、大本営発表権威主義、批判精神の欠如。これら日本を敗戦と占領へと導いた大日本帝国的なるものが、第二次安倍政権下でおおきく復権した。

彼らは本当にひどい政権運営を行った。しかし、強固な支持層に支えられ、また他よりましという理由で多くの人が消極的な支持を与えてきた。消極的支持層はしばしば野党批判とマスコミ批判を行うが政権批判はしない。すなわち現実肯定/現状追認である。

安倍政権がどれだけひどいことをしても、現実肯定/現状追認へと誘導する言説が大量に供給され、消費され、すべてが忘却された。これはいったいどういうことか。

ぼくの考えでは、日米同盟への信仰がそうさせてゐる。

鳩山政権が一瞬にして葬り去られたのは、彼が日米同盟に手を入れようとしたからであり、第二次安倍政権がこれほど長期化したのは彼が日米同盟の深化と恒久化を進めたからだ。究極的には、日米同盟への態度に帰着すると思う。

日米同盟のありかたを変える必要があるというと、すぐに「ぢゃあ中国の属国になるのか」と怒り出す。アメリカの属国になるか中国の属国になるか、それしか選択肢がないと思いこんでゐる。それが奴隷根性というものだ。これに支配されてゐるから、「今の日米同盟」を死守せざるをえなくなる。だから朝鮮戦争終結を邪魔する。

日米同盟とそれに依存する日本人の奴隷根性・属国マインド、これが本当の膿の親であり、これが本丸だ。ここを解体して「新しい国体」を生み出すことができないならば、安倍政権が終わったところで本質は何も変わらないと思う。

日米同盟を維持するにしても、それを神の位置からおろし、自立した2つの国が結ぶ日米軍事同盟に変えないといけない。そして、それを自在に操れるような「新しい国体」を構想する必要がある。これによって大日本帝国の残滓を正しく葬り去り、その遺灰をもって新しい生の土壌とすべきである。

なんて書くとめっちゃ愛国右翼みたいだなあ。どんずべり感半端ないわ😱