手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「未来への大分岐」斎藤幸平 編

未来への大分岐ー資本主義の終わりか、人間の終焉かー集英社新書 2019

著:マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソン、斎藤幸平

たいへん勉強になりました。

斎藤幸平さん、お若いのにすごい学殖。そして、ヒューマニズムへの深い信頼をもち、温厚な常識人との印象を受けた。この人の言論活動をこれから注視していきたい。とてもうれしいこと。

本書のなかで「Think Big !」という言葉が繰り返しでてくる。資本主義の限界、民主主義の危機、環境問題、AIの進化、さまざまな問題が重なり個人の力では対処しきれなくなって、権威主義的リーダーを待望する空気が横溢してゐる。しかし絶望せず、普遍的人権や普遍的価値を守り人々が人間らしい生きかたができるような世界をつくっていかなくてはいけない。そのために「大きく考え、大きな展望をえがこう」という。

立憲民主党と国民民主党が合体して新党ができるとのこと。新党には是非、国民をニヒリズムから解放し「社会は変えられる」と国民に思わせるような大きなビジョンを示してほしい。

そう書くぼくは、やはり「上からの改革」を期待してゐる。本書はこの「上からの社会改革」ばかりを求める動きを「政治主義」として戒める。なぜならそれは、民主主義の闘争領域を選挙戦へと狭め、当事者の主体性を奪ってしまうからだ。

日本ではとくに社会運動が弱い。これはほんとうにそうで、こうしてブログでああだこうだいってるだけのぼくなどは反省しないといかんぜよ。

 現実が絶望的になり、残された時間がわずかになればなるほど、国家権力や最新の技術を使い、上からの「効果的な」改革を求めたくなる。だが、この危機的な状況をつくるのにもっとも積極的に加担しているのが、国家権力であり、資本であり、最新技術である事実も忘れてはならない。

 だとすれば、残された解放への道は、ポストキャピタリズムに向けた、人々の下からの集合的な力しかない。「社会運動・市民運動が大事」という左派の念仏が人々の心に届かなくなって久しい。けれども、大分岐の時代においてこそ、ニヒリズムを捨てて、民主的な決定を行う集団的能力を育む必要があるのである。

 だからこそ、大きな展望を持った新しい言葉を紡ぐことが求められているし、世界の知識人はその倫理的責任を引き受け、動き出している。

 その事実が日本にも伝わりますように。そして、願わくば、彼らの新しい言葉が絶望しないための一抹の希望になりますように。 「おわりに」