「イスラム芸術の幾何学ー天井の図形を描くー」2011 創元社(原著:2007)
著:ダウド・サットン 訳:武井摩利
小さくて可愛らしい本。きれいなデザインを見る幸せ、目の贅沢を楽しんだ。
イスラムのデザインの視覚構造には、キーとなるふたつの面がある。アラビア文字のカリグラフィー(世界の優れた書字伝統のひとつ)と、抽象的な装飾模様(多彩でありながら驚くほどの統合性を持つ視覚言語)である。純粋な装飾芸術としての後者には、さらにふたつの中核要素がある。ひとつは幾何学パターンで、平面を調和のとれたシンメトリカルな図形に分割し、複雑に織り合わさったデザインを作り出して、無限性やあまねく存在する中心といった概念をあらわす。もうひとつは理想化された植物模様、つまりアラベスク、唐草、葉、蕾、花などであり有機的な生命やリズムを体現する。 「はじめに」
イスラムのデザインは、文明化とひきかえに失われた霊的な感覚を、無垢の自然が持つ原初的な美しさを再構築することで補完し、俗世にどっぷり浸かった人間を真剣な熟考へいざなおうとする。イスラムのデザインは、一種の”目に見える音楽”だと言ってもよい。モチーフの反復とリズムが内なるバランス感覚を目覚めさせ、神への祈りや神についての思弁を視覚的に展開する役目を果たすのである。 「むすび」
ぼくはカタック探求のためにこういう本を読むのだけれど、勉強がすすむほどに、自分はイスラームが好きなんだという感覚ばかりが強くなる。そしてインド的な意匠やインド神話には、イスラームほどには強い関心を持てないことに戸惑いを覚える。
ぼくはまだ本質的な意味では「インド」に出会ってゐないのかも知れない。何事にも機というものがある。熟成や発酵を経たところですてきな出会いがあるだろうと、ぼんやり希望を抱いて待つことにする。
待つ、というのは大事だ。