手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

中毒性

再生回数を稼いだり、沼らせたり、推し活動へ誘ったりするために、コンテンツ制作者は消費者を中毒にさせるべく様々な工夫を凝らしてゐる。受け取るほうも「すごい中毒性だ~」とこれを誉め言葉として使ってゐる。

私も優れたコンテンツに触れてしばしば中毒みたいに連続で視聴することがある。最近は YOASOBI の「アイドル」にやられた。凄い曲だと思う。詞も曲も面白い。特にサビの前の盛り上げかた「そんな言葉に」の二拍三連がグっとくる。イクラさんの歌唱も見事。これだけテンポが速くて譜割がこまかいのに、なんと軽やかなこと。

同時に「しんどいな」とも思う。素直に「いい歌だな~」と言えない。中毒性が高すぎる。刺激物を大量に注入された感じがする。技術的なことはさっぱりわからないが、切羽詰まった感じとピコピコ音が関係あるんだろう。「夜に駆ける」からそうだが、「アイドル」において、この切羽詰まり感とピコピコ音がひとつの頂点に達したらしい。

息詰まるような切迫感が現代のリアル(承認!タイパ!コスパ!)なのだと言われたらそれまでだが、いやさすがに、ちょっと切羽詰まりすぎ、ピコピコしすぎではないだろうか。もう少し中毒性を下げてほしい。歌を聴いて「すごい中毒性だ~」ではなく「いい歌だな~」と言いたい。

私は公式MVよりもライブ版のほうがだんぜん好きだ。イクラさんのダンスがいい。歌に影響が出ない程度にちいさく動いてゐる。ちいさな振付とちいさな動きがいい。詩曲の異様な切迫と対照的に、イクラさんは歌舞とも力が抜けてゐる。紫のマニキュアも素敵だ。

歌手が歌いながら踊る、乗りと振りのあいだを行き来するようなちいさな振付の系譜というものがあると思う。キャンディーズとか中森明菜とか、部分的に決まった動きが出てくる感じ。「アイドル」のイクラさんのダンスは個人的にはその完全形態ですよ。かろやか。

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