手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「近代能楽集」三島由紀夫

近代能楽集三島由紀夫 新潮文庫 1968

仕事が忙しいというのもあるがとにかく天候不順がひどすぎる。4月しんどかった、5月もしんどかった。虚弱体質の自分には本当につらい。腰も痛い。冷房が欲しいくらい暑いと思えば、夜寝るときには毛布を出したりする。雨も多い。来週は台風が来てずっと雨らしい。梅雨入りという話も聞いた。どうなってゐるのか。毎日高麗人参エキスを白湯に溶かして飲んでゐるが、効果は感じない。オフィスの冷房でからだが冷えてしまう。頭部に冷気を受けると途端に頭痛になってしまうから、夏用のニット帽を持参してゐる。もちろん膝掛け毛布はどこへでも携帯していく。やれやれである。参ったね。そういうなかで、三島由紀夫の「近代能楽集」は最高の慰安でありました。最近は人文系の本を読むことが多いが、気力がないときに文学作品を読む。本棚を見てパっと目に入った、長らく積読になってゐた三島の戯曲を読み始めた。ああ面白い。どれもこれも面白くて、一気に読んでしまった。特に「邯鄲」「綾の鼓」がよかった。いや全部いい。これまで読んだ三島作品のなかでいちばん好きだ。太宰治の「御伽草子」とかこれとか、文豪が古典を翻案したものはどれもいいですね、って他に思いつかないんですけど。三島のほかの戯曲も読んでみようと思ったことですよ。次の箇所など、時空がいっぺんに移動してわーっと景色が変わる、演劇的転換。素晴らしい体験。

老婆 八十年前・・・・私は二十だ。そのころだったよ、参謀本部にいた深草少将が、私のところへ通って来たのは。

詩人 よし、それじゃあ僕が、その何とか少将になろうじゃないか。

老婆 莫迦をお言いな。あんたの百倍も好い男だ。・・・・そうだ、百ぺん通ったら、思いを叶えてあげましょう、そう私が言った。百日目の晩のこった。鹿鳴館で踊りがあった。私はあまりのさわぎに暑くなって、庭のベンチで休んでいたんだ・・・・

(ワルツの曲、徐々に音高し。背景の黒幕をひらかるゝや、庭に面したる鹿鳴館の背景、おぼろげにあらわる。むかし写真屋が背景に用いたる絵の如き描法、可なり)

卒塔婆小町』104頁