手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年」山本章子

日米地位協定 在日米軍と「同盟」の70年」山本章子 中公新書 2019

苦しい読書だった。日本は本当にひどい国だなあと実感するのに加えて、自分がこうして勉強したところでなにがどうなるわけでもないという無力感が絶えずおそってきた。

さらに岸田首相がウクライナへ行って「必勝しゃもじ」をプレゼントしたという報道を目にし、日米地位協定の改定なんか永遠に無理なのではという絶望的な気持になった。

そんなこととは関係なく、著者の山本さんは終章において、米国が交渉に応じる可能性は低いため地位協定の改定は現実的にはむづかしい、合同議事録を撤廃すべきである、それでも問題は大幅に改善される、と主張してゐる。

ふむふむ。なるほど。

 現実に日米地位協定改定が実現する可能性が低い以上、本書で論じてきた日米地位協定のさまざまな問題点は解決できないのか。そうではない。一九六〇年に日米地位協定とともに日米両政府が取り交わした、日米地位協定合同議事録を撤廃するという方法がある。

 この合同議事録は、基地管理権や基地外での米軍の行動について規定した第三条、米軍の移動について規定した第五条、刑事裁判権について規定した第十七条など、日米地位協定のなかでもとりわけ在日米軍の特権の根幹に関わる条項の解釈を取り決めたものである。その目的は、日米行政協定で確保した米軍の既得権益を、日米地位協定への全面改定後も温存することにあった。

(・・・)

 一九六〇年に結ばれた日米地位協定合同議事録を撤廃し、日米地位協定の条文通りの運用を行うことによって、不完全ではあるが協定が抱える問題の大部分は改善されるだろう。

 ただし、協定の改定ではなく合同議事録の撤廃という形であっても、米国の同意を得ることが困難であることに変わりはない。既得権益を奪われることに対して、米軍部はあらゆる手段を用いて抵抗することが予想される。

 それでも合同議事録の撤廃を提案する理由は、次の二点である。

 第一に、合同議事録が一種の密約である点で正統性を持ちえないことだ。現在は外務省のホームページで公開されているが、一九六〇年の締結時には秘匿され、国会で審議されていないものを政府間合意とは呼べない。正統性のない合意議事録を維持することは、日米地位協定そのものの正統性に関わってくる。

(・・・)

 第二に、交渉の難易度が下がることだ。日米地位協定の複数の条文を見直すとなれば、交渉はかなりの長期間に及び、さらに交渉中に日米両国の政府が交代して方針が変われば、長期化はより深刻なものとなろう。これに対して、合同議事録の撤廃という論点はシンプルであり、交渉期間の長期化を回避しやすい。 210-212頁