手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「言の葉の庭」

言の葉の庭」2013 日本 監督:新海誠 声:入野自由花澤香菜

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新海誠監督の新作「すずめの戸締まり」を見たいと思っていま友達と日程調整をしてゐるところ。どんなかな。楽しみ。

言の葉の庭」がAmazonプライムに入ってゐたので見てみた。とても感動した。新海作品のなかで一番好き、それもかなり圧倒的に。といってもこれまで見たのは「秒速5センチメートル」「君の名は。」「天気の子」のみで、今回「言の葉の庭」を見てようやく四作だから、まあちゃんとしたファンではない。

二度目のほうが面白ければ/感動が深ければ、それはいい映画であるというのがぼくの採用してゐる判断基準である。「秒速」「君の名は。」「天気の子」、いづれも新海的カタルシスを堪能できる作品だと思うが、ぼくの場合は、二度目見ると物語上の違和感が大きくなって評価が下がってしまった。

新海的カタルシスとは「映像の美しさ×編集のリズム×音楽×タイトル」でドーン!というアレである。「すずめの戸締まり」の冒頭部分がこちらもAmazonプライムで配信されてゐるので見たのだが、ちいさな画面で見ても物凄いドーン!だった。(こちら

新海作品において物語はこのドーン!に奉仕するためにあり、冷静に考えると「それでええのんか」「いやさすがにまづいのでは」と感じる展開が多いように思う。一度目はドーン!にやられてしまうのだが、二度目にはすごく気になるのでドーン!効果が薄れてしまう。

「秒速」は主人公の貴樹君が社会人になっても小中学生時代の想い人に執着してゐるという設定がきつい。見た感じ新卒とかではなく、働き始めてそれなりに時間が経ってゐるようなので、10年以上前の恋ということになる。それも一回桜の樹の下でキスしただけ。その尋常ならざるピュアネスのために山崎まさよしドーン!が最大化するということはわかるのだが。。。

君の名は。」の落差がいちばん大きい。二度目見ると、3年も時間がズレてゐることに二人が気づかないこと、隕石が落ちた村のことを男の子が覚えてゐないことに強烈な違和感を覚える。「君の名」をなぜか忘れてしまうのもおかしい。さっき呼んでたやん、という。

最後に二人が再開して、互いのことを覚えてゐるのも都合がよすぎるように感じる。悲劇を回避できたなら、ふたりの記憶が消えて、忘れてしまう、すれちがう、でないとバランスが取れないように思う。セカイを救うのにボクもキミもなんの犠牲も払わないのはヘンだ。セカイのバランスとしておかしいと思うゾ。

たぶんそういう批判がけっこうあったのではないだろうか。「天気の子」ではセカイを救うために女の子が自己犠牲をするのだが、男の子がそんなのイヤだといい、鳥居からジャンプして異界へ飛び、女の子を救出する(RADWIMPSドーン!)。しかしセカイは沈没してゐる。セカイではなくボク/キミを選ぶ。

なるほどこれでバランスは取れたのかもしれない。が、自己犠牲という美徳はどうなってしまうのだろう。若い世代や特定の属性をもつ人(巫女/天皇)に犠牲を押しつけることはよくないことだが、自己犠牲の行為は尊いものだ。どの命も平等に尊いが、自分よりも誰かの命が大事というのが愛でしょう。男の子が勝手すぎるように感じた。

言の葉の庭」はこういう物語上の違和感がない。いや、女性の高校教師が自分が教えてゐる高校の男子生徒を誘惑して、、、という設定はヤバい、性別が逆なら大炎上という気がするが、そこは和歌をつかってボカしてゐるし、性愛も最後のところまでは描いてゐないからよいではないですか。

上映時間46分。短い、というのがすごくいい。いろいろ詰め込まずに二人が惹かれあって結びつくまでが一直線で進んでいき、セカイの運命とも関係がなく、完璧なハッピエンドとなる。秦基博さんが歌う「Rain」(大江千里のカバー)が流れたときのドーン!は最高にいい。たまらなくいい。

文句なしのハッピーエンドはぼくが見た四作品のなかでは「言の葉の庭」だけだと思う。はっきりと性愛を肯定してゐるのもいいです。全体がものすごく官能的なのだけれど、イヤらしいエロな感じに堕ちない。雨で包み、和歌で誘う。ふたりの声がとっても上品だし。

素晴らしい「Rain」の中の抱擁のあとで、ふたりは最高の性愛を体験したと思われる。そこを余韻で想像させるのがなんともエロティックだ。通常のドーン!に加えて想像的な性愛成就のドーン!がプラスαである。

というわけで「言の葉の庭」が大好きです。