「経済の論点がこれ1冊でわかる 教養のための経済学 超ブックガイド88」
こういう本はありがたい。「景気」「格差・貧困」「雇用・教育」など12のトピックについて各分野の専門家がその概要と論点を示し、読みべき本を紹介してくれてゐる。さっそく3冊ほど図書館に予約をした。
冒頭の三者の対談で議論されてゐる「経済学的発想」と「反経済学的発想」の違いは重要だと思った。
「反経済学的発想」というのは経済活動をパイの奪い合い、領土の取り合いの戦国ゲームみたいなイメージで考える発想のこと。誰かが得をしたら、誰かが損をしてゐるはずだという「ゼロサムゲーム」的な考えかた。すべてを勝ち負けの視点でとらえる。
それに対して「経済学的発想」は世の中全体の連関を考える。交換は双方向で行われてゐるのだから本来的に両方が得をするウィン・ウィンのものだ。様々な主体がそのような交換を行う総体として経済がある。経済は個々のプレイヤーの意図とは別の自律した法則によって動いてゐる。と、知ること。
松尾 (・・・)例えば、ケインズは市場メカニズムの失敗を強調しますが、きちんとした経済学的発想に基づいて論理を展開しています。逆の「国際競争に後れをとらないために、『選択と集中』で今後成長が見込める産業に注目的に投資して、生産性の低い産業は淘汰しよう」みたいな考え方は親市場的ではありますけれど、さっき言ったような意味で反経済学的発想です。(・・・)
飯田 そういう反経済学的な主張の典型に「企業がもっとリストラしてシェイプアップすれば、日本経済は良くなる」っていうのもあります。「信長の野望」経済観にも近いですが、企業が強くなることと日本経済が良くなることはイコールではない。(・・・)
井上 そういう話を聞くと「リストラされた人を日本海に捨てんのかな?」って思ってしまいます(笑)。経営者の優れた人に政治家をやらせるとダメな場合が多いのは、そこなんですよね。
松尾 一企業として最適な生き残り戦略は何かっていう話と、日本経済全体の話がごっちゃにされているんですよね。経営者というのは、自分の意志で企業を動かしているから、そういう人たちがマクロ経済について意見を言うと、だいたい間違えることになるわけです。 24頁
松尾さんは後半のブックガイドの箇所で、「経済学的発想」と「反経済学的発想」が議論するとたいてい「経済学的発想」が負けてしまうと嘆いてゐる。
たしかに、世の中の経済議論を見てゐると、領土の取り合い・勝ち負けゲーム式の議論のほうが影響力をもってゐるように思う。
それはきっといつの時代も拝金主義みたいなものがあって、お金を稼いでゐる人がエラくて経済についてもわかってゐるはずだという信憑があるからだ。
市場で稼いで勝つことと、全体の連関について理解してゐることとは別のことなのだけれども、やっぱり経済的成功者の意見のほうが説得力をもっちゃいますよね。残念なことに。