手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「宇宙を映す身体ーアジアの舞踊ー」宮尾慈良

宇宙を映す身体ーアジアの舞踊ー」宮尾慈良 新書館1994

バリ、インドネシア、タイ、台湾などと伝統舞踊についてかなり詳しい記述がある。それらの舞踊が、題に示してゐるとおり、民族の宇宙観や精神世界を表現してゐるのだという。そういうところが伝統舞踊の魅力ですよね。

けれど、カタックについてはまったく記載がない。おそらく宮尾さんの関心は特に東南アジアに強く向けられてゐるのだろう。カタックはインドの舞踊だけれども、ムガル宮廷で原形ができたもので、中央・西アジア的な要素が極めて強い。ぼくはそこに惹かれてゐる(一神教的なものが好きなのかしら・・・)。

ここで紹介されてゐる舞踊にはあまり関心がないので、ざっとひろい読みをした。本当は全部読みたいところだけれど、内的欲求がない状態で読んでも血肉化されない。興味が出たときにまた読めばよい。生の踊りを見たことのない段階で論文だけ読んでもイメージがわかないもの。

一か所だけ、目についたところがあったのメモしておく。

 ナンディケーシュヴァラが著した古代インドの舞踊理論書である『アビナヤダルパナ』 は、身振りの鏡と訳されている。身振りというものは、自然界に充満する目に見えないエネルギーが身体という仮の体をかりて顕現するものとされる。それは舞踊に接することで、人間本来の精神性を回復することを教えてくれる鏡である。わたくしたちが顔や姿を鏡に映し出すときは、自分の本当の顔や姿を見ているように思うが、鏡のなかにいま一つの本当の自分が映っている。それは虚像のなかの実像である。しかし、その実像はなかなか見ることができない。ところが舞踊は直接にその実像を現してしまう。しかも、舞踊者は内なる精神を、身体という器によって、外に顕そうとする。人間の内なる心の状態は、どれほど充実しているかどうかを形として顕れる姿態に見る。そこに舞踊の美を発見するのである。 27頁

最高ですね。

調べてみると、宮尾さんは1986年に〈インド舞踊聖典『アビナヤダルパナ』〉という論文を書いてゐる。これは読むしかないな🐢