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「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」鹿島茂

エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層鹿島茂 KKベストセラーズ 2017

出生力転換と識字率

人類は長い間、たくさん子供を産みその子供がたくさん死ぬという多産多死型社会だったが、18世紀半ば頃から少なく産んだ子供を死なないように育てるという少産少死型社会に移行をはじめた。

まづ、医療の発達と栄養状態の向上により少死化がはじまる(死亡力転換)。しかし同時に出生率が低下するわけではない。ゆえに多産少死型社会となり、人口が急激に増加する。そこから一定の時間が経過したのちに、出生率が低下して少産型となる(出生力転換)。死亡力転換と出生力転換の間には時間差があり、この期間は人口が増え続ける。

多くの学者は出生力転換の要因を経済であると捉えてきた。国民一人あたりの年収が一定の基準に達したときに起こるという理論が有名だ。しかしトッドは識字率、とりわけ女性の識字率が最大の要因であるとした。そして、女性の識字率はその社会の家族システム(類型)により決定されると。

識字率とは母語で読み書き能力を持つ15歳以上の人がある母集団内で何%を占めるかを示す数値である。トッドによれば、男性の識字率が50%を超えると社会変革への機運が生まれ(本を読み、思想を理解し、イデオロギー的になるため)、女性の識字率が50%を超えると出生率が下がり、社会が安定する(本を読み、避妊の知識を得、受胎調節の鍵が自分にあることを知るため)。

 トッドの独創は、この人口学における大問題と、ケンブリッジ・グループで学んだ家族人類学を接続させた点にあります。

 つまり、出生力転換に時期のずれが生じるのは、家族システム(類型)が単一ではなく、さまざまにヴァリエーションがあり、そのヴァリエーションによって女性識字率が異なっているからだとしたのです。いい換えれば、女性識字率が高く出る家族システムもあれば、反対に女性識字率が低く出る家族システムもあり、その出発点における小さな差がゴールにおける大きな差となって現れると考えたのです。 21頁

(・・・)トッドは、女性の識字率が五〇%を超えると出産調整が始まり、出生率が下がることに注目しました。つまり、人口学で最大の問題となっている出生力転換、多産多死社会から少産少死社会への転換の原因は経済ではなく、女性の識字率にあると考えたのです。ここから、テイク・オフのパラメータとして女性の識字率出生率合計特殊出生率)の相関関係が俄然、クローズアップされるようになりました。なぜなら、家族類型によって女性の識字率はかなり異なるので、女性の識字率がもともと高い家族類型、たとえば直系家族などではそれが出生率の低下を招くのでテイク・オフが早くなるが、共同体家族においては外婚制にしろ内婚制にしろ、総じて女性識字率が低いので、出生率は高止まりで、したがってテイク・オフが遅れるということが言えるからです。また、内婚制共同体家族であるイステム圏と、核家族が崩れたような東南アジアのアノミー家族では、後者のほうが女性識字率が高いのでテイク・オフも早まるだろうと、一九八〇年代の段階で予測できたのです。

 人口の自然増と自然減との境目の出生率はおよそ二・〇七とされています。日本の二〇一五年の出生率は一・四五でしたが、直系家族地域では出生率が総じて低く、いま日本や韓国やドイツで問題となっている少子高齢化は家族類型に内在する問題であることがわかります。 32-33頁

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「4つの家族類型」 22頁

なぜイギリスで産業革命が起き、資本主義が発達したか

イングランドは絶対核家族類型に属する。子は親と同居せず、親子関係はドライ、相続でさへ金銭を媒介にした売買関係にしてしまう伝統がある。自由・独立・競争の気風を有する。他方で、教育には不熱心であるため、知識の蓄積が行われない。資本主義発達の半分の要件しか満たしてゐない。

スコットランドは直系家族類型に属する。その特徴は、長男が家に残り、教育を担うその妻にも権威があるため、知識の蓄積が行われる。資本主義発達のもう半分の要件を有する。

このイングランドスコットランドが1707年に同君連合(同じ君主を擁する複数国の連合)を組み、グレート・ブリテン王国=イギリスを成立させた。ここにおいて、イングランド(絶対核家族=自由・独立・競争)+スコットランド(直系家族=教育・知の蓄積)=イギリス(産業革命&資本主義)という式が完成した(!)。

 トッドは、スコットランドという直系家族の地域に蓄えられた知識が、イングランッドに大きく寄与したと見ています。直系家族は、長男の嫁をキーパーソンにして、知識の蓄積、継承が行われやすい家族形態です。そうした直系家族で育まれたスコットランドの知性には、哲学のヒューム、トマス・リード、経済学のアダム・スミスらの「スコットランド啓蒙」と総称される知識人たち、および蒸気機関のジェームズ・ワット、電話のグラハム・ベルペニシリンのフレミング、ゴムタイヤのダンロップなど偉大な発明家、またキーツ、スコット、コナン・ドイル、スティーブンソン、ボズウェル、カーライルなどの文学者など枚挙にいとまがありません。

 つまり、同君連合でグレート・ブリテンを成立させたことで、スコットランドの直系家族の知性と絶対核家族の自由、独立、競争の冒険精神が結合して偉大なるイギリスの十八世紀を用意したのであり、もし、どちらかが欠けていたとしたら、十八世紀はイギリスの世紀とはならなかったにちがいありません。 120-121頁