手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」峰宗太郎 山中浩之

新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」峰宗太郎 山中浩之

日経プレミアシリーズ新書 2020

すごく勉強になった。バランスの取れた良書だと思う。そもそも新型コロナウルスとはどんなものなのか、免疫系の仕組、ワクチンの種類・リスク、PCR検査とはなにか。などコロナパンデミックを考えるための基礎知識が、浅すぎず、深すぎず、極端に走らず、まんべんなく丁寧に紹介されてゐる。ぼくはそのように感じた。

ぢゃあ説明してみろと言われたら「そらあ無理です」と答えるほかないのだけれど、少なくとも、これを読む前よりは、妙な情報に振り回される可能性が減ったと思う。

深刻だと思ったのはまさにこの「妙な情報」に関してで、峰氏によれば、ネットでの「謎理論」の氾濫はもちろんのこと、書籍であっても、医療系の本は9割がトンデモ本だと言うのである(それはさすがに誇張では)。

これは医療情報に限ったことではない。ぼくの関心で言えば、中国や韓国に関するネット情報はアジア蔑視回路に適合するよう編集されたものばかりで手が付けられない状態になってゐる。

峰氏は「誰を信じるか」「どの媒体を信じるか」ではなく、「話そのもの」に焦点をあて、是々非々で考えるべきと言う。まったく正しいと思う一方で、非現実的であるとも思う。なぜならあらゆる問題に関心を持ち、自分で調べて自分で考えることは、誰にとっても不可能だからだ。

ぼくたちは自分が一定の知識を持ってゐない分野については、基本的に「まあこの人が言うなら」あるいは「このメディアなら大丈夫だろう」という「人間/メディアベース」で判断する。そんなもんだという前提で考えるべきだと思う。

したがって、フェイクニュース陰謀論、マスコミが報道しない真実、などが溢れかえる現在の情報社会をより良質なものとするために何をすべきかという問題について、ぼくは人々の「リテラシー」や「考える力」に期待しすぎるべきではないと考える。

社会がいかにして「横断的知識を有し、公的利益を第一に考慮する、信頼できる人/組織/媒体」を育て、また彼等に権威を与えることが出来るか、これにかかってゐると思う。