手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り🌴

「新装版 ソウルの練習問題」関川夏央

新装版 ソウルの練習問題関川夏央 2005 集英社文庫

1984年に刊行された「ソウルの練習問題 異文化への透視ノート」の新装版。

恐ろしく知的で、機知に富み、品の良い文章で、これぞ名エッセイストの名文と感服しきりだった。

ネットの記事、ツイッターの文章を読んでばかりの目に、こういう陰影のある文章は新鮮に映った。

80年代初頭の韓国も、21世紀の韓国もぼくは知らない。

ぼくがもつ韓国についての知識、あるいは印象は、中国で知り合ったひとりの韓国人の友人と、いくらかの韓国映画と、キム・ヨナさんのスケートから得られたほんのわづかのものに過ぎない。

それなのに、不思議なことに、この本を読んでゐるあいだ、なんだかなつかしいような気持ちがずっとしてゐた。

新装版文庫のためのあとがきの最後に、著者は次のように書く。

私の現代韓国に対する感想は少なからず苦いが、そこにはこの四半世紀のうちに韓国から失われたなにかものかを惜しむ気持がいく分かまじっている。

ぼくがなつかしく感じたのは、きっとこのルポルタージュが「この四半世紀のうちに韓国から失われたなにか」を、怜悧な知性に裏打ちされた詩情あふれる文章によって表現し得てゐるからだ。

韓半島の土を踏んだことのない者にさへ、それを感じさせるほどに。