「パラサイト 半地下の家族」2019 韓国
監督:ポン・ジュノ 出演:ソン・ガンホ、チェ・ウシク、チョ・ヨジョンほか
「あの男はことばもふるまいも乱暴で荒々しいが、一線を守る。そこが信頼できる。しかし、あの匂いがその線を超えてくるんだ」
高台に住む、社会上層の、高級国民たる社長のせりふ。
これが実にえげつない。
「匂い」は視覚的に表現できないが、この映画の家族、その家長たるギテク(ソン・ガンホ)をあの行為にまで追い込んだのは、この「匂い」にかかわる屈辱。
こびりついてとれない「匂い」、意志とはうらはらに線を超えてしまう「匂い」。
そして、その「匂い」にたいして上流階級の人々がしめす「無邪気」で「シンプル」な反応。
なんとおそろしい。
ギテク一家が上流家庭へ侵入していく前半、彼らは楽しそうだ。
しかし、「匂い」がすこしづつ彼らをおいこんでいく。
まづ子供が気づく。
「あの運転手と、あの家政婦さん、同じ匂いがするよ!」
次に社長が居間で言う。
「同じ車に乗ってるとな、あの匂いが一線を越えてくるんだ。あれはなんだ」
豪雨の中、なんとか脱出した家族が半地下の家にもどると、低い土地だから浸水してゐて、一家は下水まみれになってしまう。
翌日、ギテクが運転する車に乗った奥さんは、顔をしかめ、鼻をつまみ、窓をあける。
なんて「シンプル」なんだ。
そして、クライマックスのパーティー、あの情況にあってなお「匂い」に反応してしまう社長。
それを見たギテクの表情がすごい。
「匂い」におこいまれていくごとにギテクの表情がすこしづつ深刻になっていく。その演技が本当に見事。
「匂い」に対する社長の反応を見て、ギテクは行為によって一線を超えることになる。
あの表情が忘れられない。まったくすごい俳優だ。ぼくはあのとき、「やってよい」と心底思いましたよ。あの顔の力はいったいなんだ。
「匂い」差別というのはいちばん「こたえる」ものなんだ。
レイシストは、「朝鮮人ってキムチ臭いよね」とかいう。いちばん「こたえる」とわかってゐるから。
ラストシーンも最高。
長男がある「計画」を立てるわけだけれど、この映画の中で「計画」ということばは特別な意味をもってゐる。
完璧な計画ってなにかわかるか?無計画だよ。なぜなら計画をたてると、必ずうまくいかない。だから無計画がいちばんなんだ。
このセリフがきいてゐる。
オヤジのために半地下でひとり計画を立てる長男。
しかし「計画」は、かつてオヤジが言ったセリフによって否定されてゐるわけだ。
おそろしい。