手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「ブルックリン」

「ブルックリン」2015 

監督:エモリー・コーエン 出演:シアーシャ・ローナンエモリー・コーエン

トミーが「I love you」と言い、エイリシュが「I ....」と言いかけるも、最後まで言わず、「とてもうれしいわ」と返す。

そういう逡巡ってとても素敵だ。

だって心の綾、情の機微ってそういうものぢゃない。

そして次にあったときに

「もう一度、あなたが愛してると言ってくれたら、わたしも同じことばを返すわ」

というセリフ。

そしてその時のトミーの顔。最高です。

これは名シーン。

二人とも惹かれあってゐる。それはわかってゐても、少しづつ、相手を傷つけないように、相手を知り、自分を伝えるために、会って話をする。

そういう二人のコミュニケーションの深まりがとても美しい。

エイリシュがアイルランドに戻ってからの時間、それは裏切りなのでは!などと思うが、そこが共同体の力、そして死者の力。

故郷には姉がかつて担ってゐた役割を埋める人が必要で、それにはそれなりの幸福というものがあるはずだ。しかし・・・という。

ラスト近く、「忘れてゐた、ここはそういうところだった」そう言って決然と立つシーンには思わずドキリとした。

ここの演出がとてもアッサリしてゐて鋭いなあと思った。

シアーシャ・ローナンさんの名演。

帰る場所がない、新しい人生を新しい場所で築いてゆく、そういう人間の不安と勇気と希望とをとても丁寧に描いてゐる。

あと、ホームレスの人たちのためにボランティアで炊き出しをするシーンで、その中の男が歌う歌。

あれはほんとうに素晴らしい。

心震えた。