手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「お金がない」のではない。「not afford」なんだ。

ぼくはいつもお金がなくてヒイヒイ言ってる。

貯金なんて出来たことがあったかしら?

入ったものは、基本、すべて出ていく。

宵越しの金は、持たない(持てない)。

要するに収入が低いということなんだが、なぜ収入が低いかについて書きたいわけではない。

貧しいゆえに「今お金がないから・・・」なんてことばをちょいちょい口にすることになる。

ちょっといい服が欲しいけど、お金がないから・・・

本を買いたいけど、お金がないから・・・

旅行に行きたいけど、お金がないから・・・

などと。

ぼくの友人に、人間的にとてもよくできた人がゐて、その人は誇り高く、高貴で、気高い心を持ってゐる。

その人に「あんまりお金がないばかり言ってたら、貧乏性になって、そういう状態に居ついてしまうよ」と言われた。

そうだよなあ。と思った。

言葉には呪力というものがあって、口に出した言葉、書いた言葉は、その瞬間にもう客体となる。そうして事物としてこちらを規制してくるのだ。

それをナメてかかってると「居つく」という状態になる。

その状態が、いかにも自分にふさわしいかのように思いこむ。

自分の側を、客体のほうに合わせていくような心理機制が形成される。

まことに、言葉の呪力は恐ろしい。

友人は「afford」がいい、と言った。

「afford」とは「経済的・時間的・心理的な余裕がある」という意味の動詞だ。

例えば、

I cannot afford such a high rent.

私にはそんな高い家賃は払えない。(経済的な余裕)

Can you afford the time?

時間つくれる?(時間的な余裕)

I can not afford to lose my job.

仕事を失うわけにはいかない。(心理的な余裕)

「余裕がない」という状況は、それが経済的・時間的・心理的いづれの場合であっても、しんどいことだ。人を追い込む。

「afford」は余裕がない状況を、「余裕がない」と言わずに表現できる。人の自尊心を損ねないように、「余裕がない」と言える語なんだ。

ううむ。と、これは、うなりますね。

日本語にはこれに類する表現がないので、まあせいぜい「苦しくて」とか「余裕がなくて」という言い方になる。

「afford」がいい。

これからは「お金がないから~」と言いそうになったら、せめて心の中では「not afford」を使って言うことにしたい。

「金がない」ことを「金がない」と言わずに表現する語がある。

貧しい人間を自己卑下におとしこまないための、見事な配慮だと思う。