手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

本と映画-本

「月と六ペンス」モーム

「月と六ペンス」モーム 新潮文庫 1959 訳:中野好夫 訳者の中野好夫が解説で「モームくらい安心して通俗作家だと言える作者は珍しかろう」と書いてゐる。そうなのか、モームってそんなに通俗なのか、と思って読んだみたら、想像以上に通俗でびっくりし…

「新海誠論」藤田直哉

「新海誠論」藤田直哉 作品社 2022 新海誠監督が柄谷行人の「日本近代文学の起源」を読んで風景を描く手法に影響を受けたと書いてあって驚いた。なるほどそう言われるとたしかにそんな感じだ! というかまさにそれだよ! 最近柄谷さんの「力と交換様式」…

「心臓を貫かれて」マイケル・ギルモア

「心臓を貫かれて 上・下」マイケル・ギルモア 文春文庫 1999 翻訳:村上春樹 悲惨な事件が起ったときぼくたちはなぜこんなことになったのかと問う。いったいどこで間違えたのか、どの時点でこうなることが確定したのか、どこまで遡りなにをどうやり直せ…

「力と交換様式」柄谷行人

「力と交換様式」柄谷行人 岩波書店 2022 政治的・観念的な上部構造は生産様式ではなく交換様式によって決定される。 交換様式には以下の四つがある。 A 互酬(贈与と返礼) B 服従と保護(搾取と再分配) C 商品交換(貨幣と商品) D Aの高次元で…

「グレート・ギャツビー」スコット・フィッツジェラルド

「グレート・ギャツビー」スコット・フィッツジェラルド 中央公論新社 2006 映画はロバート・レッドフォード版とレオナルド・ディカプリオ版と両方見てゐたけれど、小説を読むのはこれが初めてだった。村上春樹さんの翻訳が出てああ読みたいという気持ち…

「ティファニーで朝食を」トルーマン・カポーティ

「ティファニーで朝食を」トルーマン・カポーティ 新潮文庫 2008 翻訳は村上春樹。表題作の他に「花盛りの森」「ダイアモンドのギター」「クリスマスの思い出」の三つの短編を収める。 カポーティが好きな友人にすすめられて、学生時代に「夜の樹」とい…

「インド神話 マハーバーラタの神々」上村勝彦

「インド神話 マハーバーラタの神々」上村勝彦 ちくま文庫 2003 インド神話は複雑だ。まづ紀元前1500年頃にインド亜大陸に侵入したアーリア人による「リグ・ヴェーダ」がある。そしてその背景となる神話が忘れられたところに、首尾一貫した物語を再…

「現代思想入門」千葉雅也

「現代思想入門」千葉雅也 2022 講談社現代新書 発売直後に読んで感激して、ちょっと時間をあけて先日再読した。そうしていまこの記事を書くにあたり線を引いた箇所を読み返して、ううむなんて深いんだと改めて感じ入ってゐる。抽象的なことばで考える哲…

「暇と退屈の倫理学」國分功一郎

「暇と退屈の倫理学」國分功一郎 新潮文庫 2021 ハイデガーの退屈論における「退屈の第二形式」には驚嘆した。國分さんが繰り返し「すぐれた発見である」と強調するのもわかる。そこを読んだところで、あまりに興奮したから、散歩に出てしばらく考えてし…

「奇跡の投手人生 50の告白」山本昌

「奇跡の投手人生 50の告白」山本昌 2015 ベースボールマガジン社 YouTubeチャンネル「フルタの方程式」が好きでよく見てゐる。90年代はそこそこ野球を見てゐたので、古田さん世代の人が楽しく話してゐるのを見るのはとても愉快だ。 選手としての成…

「草薙の剣」橋本治

「草薙の剣」橋本治 新潮社 2018 62歳から12歳まで、10歳ずつ年の違う6人の男たちを主人公に、その父母や祖父母まで遡るそれぞれの人生を描いて、敗戦、高度経済成長、オイルショック、昭和の終焉、バブル崩壊、二つの大震災を生きた日本人の軌跡を辿る…

「新版 吉本隆明1968」鹿島茂

「新版 吉本隆明1968」鹿島茂 平凡社ライブラリー 2017 若い世代に「吉本隆明の偉さ」を伝えるために書いたとのこと。吉本の本は「真贋」とか「夏目漱石を読む」とか晩年に書かれた軽いものをいくつか読んだことがある。本格的な理論書では「共同幻…

「中国哲学史」中島隆博

「中国哲学史 諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで」中島隆博 2022 中公新書 仁、礼 「仁」は孔子によって新たな息吹を与えられた概念である。 アンヌ・チャンは「仁、は人を愛することである」という一句を手がかりに、「孔子の語る愛が、神という源…

「論語の話」吉川幸次郎

「論語の話」吉川幸次郎 ちくま学芸文庫 2008 四書五経 孔子は五経を尊重した。五経とは、「易経」「書経」「詩経」「礼記」「春秋」を指す。宋代の朱子以前の儒学は「孔子が尊重したものを孔子とともに尊重する=五経を中心とする」というものだった。…

「論語物語」下村湖人

「論語物語」下村湖人 興陽館 2021(初刊は1938年) 簿記2級の受験をひかえて勉強ばかりしてゐる。連結会計では非支配株主持分に注意が必要で、子会社の利益に変化がある取引、すなわちアップストリーム取引においては非支配株主持分の変化を反映さ…

「キッパリ! たった5分間で自分を変える方法」上大岡トメ

「キッパリ! たった5分間で自分を変える方法」上大岡トメ 幻冬舎 2004 「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学の仲野徹さんが最終講義で「人生を変えた一冊」として紹介されてゐたので読んでみた。 www.youtube.com 「めんどくさい⇒だら…

「近代政治哲学: 自然・主権・行政」國分功一郎

「近代政治哲学: 自然・主権・行政」國分功一郎 ちくま新書 2015 2013年刊行の「来るべき民主主義」の続編のような内容。 「来るべき民主主義」は著者がコミットした小平市での住民投票の経験から現在の民主主義の問題を考えるという内容だった。 い…

「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」鹿島茂

「エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層」鹿島茂 KKベストセラーズ 2017 出生力転換と識字率 人類は長い間、たくさん子供を産みその子供がたくさん死ぬという多産多死型社会だったが、18世紀半ば頃から少なく産んだ子供を死なないように育てると…

『危機の神学 「無関心というパンデミック」を超えて』若松英輔 山本芳久

『危機の神学 「無関心というパンデミック」を超えて』 若松英輔 山本芳久 文春新書 2021 「すでに」と「まだ」の緊張関係 ローマ帝国において当初迫害されてゐたキリスト教が徐々に拡がり、やがて国教化されるに至った、その背景には疫病との関係があっ…

「太平洋戦争への道 1931-1941」 半藤一利、加藤陽子、保阪正康

「太平洋戦争への道 1931-1941」 半藤一利、加藤陽子、保阪正康 NHK出版 2021 第一章 関東軍の暴走 第二章 国際協調の放棄 第三章 言論・思想の統制 第四章 中国侵攻の拡大 第五章 三国同盟の締結 第六章 日米交渉の失敗 第一章 関東軍の暴…

「NHK100分de名著 西田幾多郎『善の研究』」若松英輔

「NHK100分de名著 西田幾多郎『善の研究』」若松英輔 NHK出版 2019 「善の研究」は図書館や古本屋でパラパラめくったことがあるだけで、まだ挑戦したことはない。本書を読んで、きっといつか読もうと思った。「絶対矛盾的自己同一」なんていう鍵語だ…

「セックスレス亡国論」鹿島茂

「セックスレス亡国論」鹿島茂 朝日新書 2009 お稚児趣味 日本は伝統的にセックス自由の国であるが、戦国から江戸にかけて、武士階級が禁欲的な性道徳をもってゐた。外で戦ってゐるときに奥さんに好き勝手セックスされてしまったら困るからだ。「節婦は…

「進みながら強くなるーー欲望道徳論」鹿島茂

「進みながら強くなるーー欲望道徳論」鹿島茂 集英社新書 2015 エマニュエル・トッドの家族人類学によれば、日本は直系家族類型に属する。子供が成長して生計を立てられるようになっても、親はそのうち一人の子供と同居する。その子供に子供ができても同…

至高の小正月

仕事をお休みしてゐるのでのんびりした時間を過してゐる。長い正月を味わうことができた。散歩したり、本を読んだり、映画を見たり、家事をしたり、そういう生活のあれこれを、意識してゆっくり行ってゐる。いいものだ。 チャコはリードを外しても勝手に逃げ…

「理不尽な進化 増補新版」吉川博満

「理不尽な進化 増補新版」吉川博満 2021 ちくま文庫 凄い本だった。章が進むごとにどんどん面白くなってゆく。特にドーキンスとグールドの論争にはグっときた。絶対に読まねば、と思うのはドーキンスの方だけれど、親近感をもつのはグールドのほうかな…

「ムガル帝国とアクバル帝」石田保昭

「ムガル帝国とアクバル帝」石田保昭 清水書院 2019 中世は人の命が軽かったんだなあと思った。皇帝はいかにも簡単に人民を殺す。女性の抑圧のされ方もひどいものだ。まるでなんにも感じてゐない。中世の残虐さに比べると、このコロナ禍において、とにか…

「コーラン」井筒俊彦 訳

「コーラン(上)(中)(下)」井筒俊彦 訳 岩波文庫 昨年一年かけてゆっくりと井筒俊彦訳の「コーラン」を通読した。こんなすごいものを一人の人間が創作できるとは思えないので、やはり神の啓示なんだと思う。ぼくはイスラーム教に対して、どういう言葉を…

「言語が消滅する前に」國分功一郎 千葉雅也

「言語が消滅する前に」國分功一郎 千葉雅也 幻冬舎新書 2021 12月の頭からクリスマスにかけて、今年中に終らせておきたいアレヤコレヤに取り組んでがんばってゐた。すべて片付き、すでにお休みモードに突入してしまった。年明けまでグータラする。 二…

「インド残酷物語 世界一たくましい民」池上彩

「インド残酷物語 世界一たくましい民」池上彩 集英社新書 2021 面白かった。とても残酷なので読みながらなんども苦しくなったけれど、副題にあるように、そのたくましさに心打たれたもした。本書に書かれてゐるような残酷なインドの現実は、長いあいだ…

「アマルティア・セン講義 経済学と倫理学」アマルティア・セン

「アマルティア・セン講義 経済学と倫理学」アマルティア・セン 訳:徳永澄憲、松本保美、青山治城 ちくま学芸文庫 2016 原著は1987年。経済学は「倫理学」と「工学」の2つの起源を持つが、近代経済学が倫理的アプローチを排除してしまったために、…