手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り

「何者」

「何者」2016

原作:朝井リョウ 監督:三浦大輔 出演:佐藤健有村架純二階堂ふみ菅田将暉岡田将生

 

この映画は2年前に劇場で見た。

アマゾンプライムに追加されてゐるのを発見し、見直したくなって再見。

原作は朝井リョウさんが23歳の時の作品で、これで直木賞をとってゐる。

凄い才人だなあ。

初見時と同じく、自意識をゴリゴリえぐられて苦しくなった。

学生時代に就活を経験しなかった自分にも、ここで描かれてゐる苦しさはよくわかる。

就活というシステムがいかに若者の自尊心を傷つけてゐるか、そしてSNSの発達、とりわけ匿名でのそれがどんなふうにぼくらのコミュニケーションを変えてしまったかが、見事に描かれてゐる。

大学生が3年次から横並びで始める就活というシステムはあまりにも不毛すぎる。自己分析をさせ大量のエントリーシートを書かせて、自意識過剰の地獄の中に追い込む。そして10も20も「不採用」を経験することで学生の自尊心はどんどん削らてゆく。

学生時代の就職活動なんてやめにして、卒業してからゆるゆると仕事を探しはじめるくらいでいいのに。

そうならず、むしろ画一化が進んでゐるのは社会の側が余裕を失い、人々が学問に価値をおかなくなってゐることの反映なのだろう。

見直して、改めて、SNSを匿名で利用することの害悪について考えこんでしまった。SNSはたいへん便利だが、あれを匿名で利用するのは、ちょっと本当にやめたほうがいいんではないだろうか。本人にとっても、世の中にとってもマイナス面が大きすぎるように思う。

映画では、主人公が匿名のツイッターアカウントを用いて、就活仲間を嘲笑するツイートをこっそり投稿してゐる。彼は何者にもなれない自分を支えるためにそれをやってゐる。そしてそういう自分を「必死なみんなとは違う、世界を冷静に分析する、リアルでクールなオレ」みたいに思ってゐる。しかし、実はこれが仲間にバレてゐて、それを知った主人公の自意識が破壊的なダメージを受けることになる。

物語では主人公が改心し、新しい一歩を踏み出す。それを後押しするというとても愛に満ちた、あたたかい、すがすがしいエンディングになってゐるからとても感動する。

けれど現実にはそうならないことがままあるだろう。匿名で、冷笑的に、クールな分析をつぶやいて、必死になって理想を追ってゐる誰かをバカにして、自分が賢くなったつもりになる。そんなことを繰り返していると、どんどん嫌な奴になっていく。そうしてどんどん自分が嫌いになる。

そうなると、他者を一段と貶めて自尊心を保とうとして、冷笑のレベルがもっと深刻になる。やがて炎上案件を物色したり、あるいはヘイトスピーチに接近するのかもしれない。

もちろん、それとは違う匿名発信者がたくさんゐることは承知してゐる。

俳優陣はみんな名演だった。佐藤さん、あんなにカッコいいのに、ちゃんとダサくて嫌な奴になってたなあ。感動した。二階堂ふみさんの鬼気迫るあの独白、ふるえました。

いやあ、いいものを見ました。