手探り、手作り

樂しみ亦た其の中に在り🌴

「街場の戦争論」内田樹

「街場の戦争論」2014

著者:内田樹 出版社:ミシマ社

 

ぼくは10年来の内田先生のファンであるから、誇張なしにブログは1999年の開始時のものから全部読んでゐるし、ツイッターもたいがいチェックしてゐる。

本は多すぎてさすがに全部とまではいかないが、気になったものは買って読む。

なんとなく「街場の戦争論」を読んでないなあ、久しぶりに先生の本を読みたいなあ、と思って買った。そうして読んだ。やはり、面白い。

最高。

とくに第一章の「過去についての想像力」と第二章の「ほんとうの日本人」はすごい迫力だ。文章の緊張度、行論の気持ちよさ、巧みなレトリック。瞬きするのも、呼吸をするのも忘れて、電車の中で直立不動で一心に読んだ。

そして感動した。

内田先生は日本がなぜ「こんな国になってしまった」のかを「あの敗戦」に遡って条理を尽くして説いてをられる。張りつめた文章から、先生の深い危機感を読み取ることができる。

 日本は戦争に負けることで多くのものを失いました。それはどのようなものか。「そんな話はもう止めよう」と言って済まされるものではありません。僕たちの国は敗戦であまりに多くのものを失った。それを回復しなければ、この国は蘇生しない。そして、僕たちが敗戦で失った最大のものは「私たちは何を失ったか?」を正面から問うだけの知力です。あまりにひどい負け方をしてしまったので、そのような問いを立てる気力さえ敗戦国民にはなかった。その気力の欠如が戦後七十年間続いた結果、この国の知性は土台から腐食してきている。僕にはそのように思えるのです。ですから、僕たちはあらためて、あの戦争で日本人は何を失ったのかという痛々しい問いを自分に向けなければならないと思います。

「僕たちの国は敗戦であまりに多くのものを失った。それを回復しなければ、この国は蘇生しない。」

「蘇生」という語彙の選択が内田先生らしくて好きだ。

そして、実に、ぼくも同じことを考えてゐる。安倍政権は大日本帝国の亡霊だ。ぼくたちがあの戦争について正面から問うことを避けてきた結果、あのようなおぞましく、喜劇的なまでに愚鈍な政治家が支持を集める国になってしまった。

どうしたらこの劣化と没落を止められるか。

現政権やその支持者を批判することは大事だろう。しかし、それではたとえ倒せても日本は「蘇生」しない。

あの戦争で失ったものを問い、それを回復しなければならない。