生活の芸術

正しいことをひかえめに言う練習

2014年衆院選 アベノクス解散「この道しかないんです。」

第47回衆議院議員総選挙 2014年12月14日

 

投票率:52.66%(戦後最低を更新)

自民党のキャッチコピーは「景気回復、この道しかない。」

民主党のキャッチコピーは「今こそ、流れを変える時。」

Japanese General election, 2014 ja.svg出典:Wikipedia

 

 定数475のうち自民党291議席公明党35議席、与党合計で326議席獲得。自民党の絶対得票率は小選挙区で24.49%、比例代表で16.99%。民主党は公示前の62議席から73議席へと11議席の増となったにもかかわらず、代表の海江田万里氏が落選し、代表を辞任することとなった。

 結果的に与党が全議席の3分の2を獲得。選挙前と選挙後で勢力図に目立った変化は起らなかった。

 無意味な選挙だった。

 

 2014年11月18日、安倍首相は翌年10月に予定されてゐた消費税増税の先送りを発表し、その信を問うとして唐突に衆議院解散と総選挙の実施を発表した。

 会見で、首相は4月1日に消費税が8%に引き上げられたことに触れ、それが個人消費を押し下げる大きな重石となってゐるとの認識を示した。「残念ながら成長軌道には戻ってゐません」と述べ、経済政策の効果が十分でないことを認めた。けれどアベノミクスの効果は確かに出てゐるから、消費税増税を延期した上で、引き続きこの方向性を推し進めていきたい。それでよいか。そう問うために解散総選挙を行うというのだ。

 

 そうして11月23日、安倍首相は「この解散は、アベノミクス解散であります。アベノミクスを前に進めるのか、それとも止めてしまうのか。それを問う選挙であります。」 と述べ衆議院を解散した。

 

 結果は上記の通り、戦後最低の投票率を更新し、勢力図はまったく変わらずということになった。消費税増税の延期を問うことが「大義」としておかしいということはない。しかし「え、それを大義に解散するの?」というのが、おそらく多くの国民が抱いた印象だったろう。実際、世論調査では解散に「反対」が「賛成」を上回ってゐた。

 「消費税の延長ごとき」で信を問うというなら、「特定秘密保護法」あるいは「集団的自衛権の行使容認」の是非を問うために、解散総選挙をやってもよかったのではないのか。どちらも、国のかたちにとって相当重要な意味を持つものなのだから。

 しかし安倍政権は前者は強行採決で成立させ、後者は閣議決定で認めてしまった。与党が圧倒的な議数を占めてゐるから、それができた。

 

 では「特定秘密保護法」や「集団的自衛権の行使容認」については信を問わず、消費税延長については是非を問うという、その理由は何か。「勝てそう」だからだろう。国民の反発が少なく、野党も攻撃しづらい増税延期を大義にして「圧倒的勝利」を得れば、あと4年の長期政権を維持できる。

 そうして「国民の信を得た」と言って、辺野古の新基地建設を推し進め、原発を再稼動し、安全保障関連法を通そうという魂胆だったのだ。で、実際、政権側から見ればそれは全部成功したのだった。

 

 首相は選挙中、演説のほとんどをアベノミクスの成果説明に割き「この道しかないんです。みなさん!」と言ってゐた。成果とは主に、「雇用が100万人増えたこと」「賃金が2%上がったこと」「有効求人倍率が上がったこと」だ。

 しかし、多くの国民にとって実感の感じられないものだった。雇用が増えたといっても、増えたのは非正規で、正規の仕事はむしろ減ってゐた。賃金は上がったといっても、実質賃金は逆に下がってゐた。求人倍率が上がったといっても、正規のそれは依然として低いままで、そもそもそれは人口減と団塊世代の引退がもたらした人手不足という要因が大きいのだからアベノミクスの手柄なのかも疑わしい。

 

 株価は2倍になり富裕層がもうかり、大企業が過去最高益を記録しても、大多数の人にその恩恵は及ばず、むしろ格差は拡大する。アベノミクス はそういうものだ。

 そして、アベノミクスがそういうものだということは、多くの国民が、それこそ「実感」してゐるものだった。選挙直後に共同通信が行った世論調査によれば、今後景気が良くなると思うか、という設問に対し「思わない」が62.8%、「思う」が27.3%だった。国民はアベノミクスを積極的に支持してゐたわけではない。

 

 しかし安倍首相はそういう声を聞こうとしない人だ。24日の会見で、首相は「今回の総選挙で、引き続きこの道を真っすぐに進んでいけと国民の皆様から力強く背中を押していただきました。」と述べた。

 明らかな解散権の乱用。戦後最低の投票率での勝利。アベノミクスもたいして支持されてゐない。これで「力強く背中を押していただきました」はないだろう。

 

 選挙の前と後で勢力がほとんど変わらなかったことから、国民は「消極的な支持」を与えたとか、「現状維持を望んだ」とかいう総括のされかたがあるが、それは違うと思う。上述のとおり、これは無意味な選挙だった。

 

 間違いなく無意味な選挙だった。

 そして、権力者が解散権を乱用して行った、この無意味な選挙はとても大きな「成果」をあげたとぼくは思う。

 それは「この道しかない」という文句を、それこそ呪文のように、国民の頭にあびせかけることができたということだ。

 言語の呪術的効果を侮ってはいけない。毎日「お前はクズだ」と言われ続ければ、誰でも自尊感情を保てなくなるものだ。

 自民党マニフェスト、冒頭に掲げられた安倍総裁の文章を引用する。

 景気回復、この道しかありません
 月1回被災地に足を運び、復興を加速してきました。地球儀を俯瞰する外交は、訪問国50を数え、大きな実を結びつつあります。戦後初めての
安全保障政策の立て直しにも挑戦しています。
 この道しかないんです
あの暗く、混迷した時代に後戻りさせる訳にはいきません。国民の皆さまとともに、
この道を前に進んでいく決意です。
 そして、誇りある日本、世界の中心で輝く日本を、
ともに、取り戻そうではありませんか。

 二度目の「この道しかないんです。」が何とも怖い。 まるで新興宗教の勧誘のようだ。

 ぼくは何も、国民が洗脳されてゐるために自民党が選挙に勝ち続けてゐるなどと言いたいわけではない。ただ、「この道しかない」という言葉の連呼が、国民の思考停止や諦らめモードへ導く効果の極めて大きかったことを指摘しておきたいのだ。

 無意味な選挙の押し付け、そして「この道しかない。」という呪文。これはかなり「効いた」と思う。

 

 しかし、この「呪文」のまったく効かなかった地域がある。

 沖縄だ。

 この選挙、沖縄では翁長雄志知事を支持し、辺野古の新基地建設に反対する「オール沖縄」陣営が4つの選挙区すべてで自民党の議員を破って当選した。

 独裁的なまでに強引な政権運営を進める安倍政権に対し、「基地問題」に直面する沖縄だけが「NO!!」と言ったのだった。