生活の芸術

正しいことをひかえめに言う練習

「インビクタス 負けざる者たち」

インビクタス 負けざる者たち」2010 

監督:クリント・イーストウッド 主演:モーガン・フリーマンマット・デイモン

 

 アマゾン・プライムで鑑賞。

 

 最近アマゾン・プライムでばかり映画を見てゐる。クリック一つで映画を見られるから、気軽に見られていい。けれどそのぶん、一時停止して別の用事をしたり、30分だけ見て次の食事までほったらかしにすることも増えるから、「映画体験」としての快楽はけっこう減ってしまうのではないかと思う。

 

 けれどイーストウッド級の洗練された映像を見せられると途中で止めようなんて気にはまったくならないんだな。網羅的に見てゐるわけではないけれど、21世紀に入ってからのイーストウッド作品の質の高さは本当に驚愕だ。ペースもやたら早い。

 

 「インビクタス」、最高だった。

 泣いた。魂震えました。

 

 反アパルトヘイトの闘士、ネルソン・マンデラが27年の投獄から解放され、南アフリカの大統領になった。分断の深刻な国家を一つにし、国民に誇りをもたせるために、マンデラは95年に自国で開催されるラグビーワールドカップに目をつけた。

 映画ではマンデラの人格が周囲の人々を変え、国家が差別意識の解消へと動きだす大きなうねりと、ラグビーチームが団結しワールドカップで優勝するにいたる様を平行して描いていく。

 

 ぼくはアパルトヘイトについても、ネルソン・マンデラについても、ラグビーについてもほとんど何も知らない状態で見た。

 そういうぼくを猛烈に感動させてしまうのだから、イーストウッドの語り口のスマートさは見事というほかない。

 

 そして、マンデラを演じるモーガン・フリーマンラグビーチームの主将を演じるマット・デイモン。この二枚看板が本当にいい。

 ぼくはこれまでモーガン・フリーマンのことを「モーガン・フリーマン俳優」だと思ってゐた。どの映画に出てゐてもあまりに自然でモーガン・フリーマンにしか見えないから。本作を見て彼が名優であることがわかった。ほんま、すまんかった。

 マット・デイモンは好青年がよく似合う。今回もタフでいい奴だった。いつも思うことだが、彼の風貌は良心とか知性とかユーモアとか、善なる人性を体現してゐるように感じる。

 

 これはマンデラの伝記映画でもないし、ラグビーを描いたスポーツ映画ではない。「インビクタス」の主題は別にある。

 この映画では人々がマンデラの人格に鼓舞され、ふつうでは発揮できないような力を発揮する様が描かれてゐる。

 本作の主題はまさにそれ「人はどうしたら自分を越えた力を出すことができるか」「人間を勇気づけ、鼓舞し、奮い立たせる力はどこからくるのか」という問いだ。

 中盤、マンデラがこの主題について明快に語ってゐる。

彼らが思う以上の力を引き出すにはどうしたらいい。

卓越した力が必要なとき、自らを奮い立たせるにはどうしたらいい。

周りのもの全てを鼓舞する方法はあるだろうか。

わたしは優れた作品に勇気づけられた。

ロベン島で絶望的な状況になったとき詩にひらめきを得た。

ただの言葉だ。

だが打ち負かされたわたしに、立ち上がる力をくれた。

我々は士気を必要としてゐる。

国を築きあげるためには、誰もがもてる以上の力を発揮せねばならない。

 打ち負かされたときに立ち上がる力をくれるもの。マンデラにとってそれは「詩」だった。この映画ではさまざまな登場人物にとっての「詩」が、彼らを鼓舞する様が丁寧に描かれてゐる。

 チームのキャプテンは「マンデラの人格」に鼓舞され、チームは「歌」に鼓舞され、国民は「スポーツ」に鼓舞され、おのおのが、もてる以上の力を発揮する。

 

 そして言うまでもなく、この映画もまた、見た人すべてを奮い立たせる「詩」にちがいないのだ!!